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「GoToで観光立国」にこだわる菅首相の裏に農林水産業軽視の歴史

(2020年11月20日東京新聞に掲載)

 菅義偉首相は16日の観光戦略実行推進会議で「我が国が観光立国として生きていくため」として、「GoTo キャンペーン」を継続していくと表明した。19日には全国で約2200人の新規感染者が判明するなどコロナ禍は完全に第3波の様相だが、まだ人の往来を増やすGoToを続ける理由は「観光立国」のためだというわけだ。それほど観光立国は大事なのか、正しいのか。(大平樹、榊原崇仁)

「感染対策と両立」うたうが…

 「事業者と利用者が感染対策に気を付けて、うまく活用いただけるように運用していきたい」。菅首相は16日の「観光戦略実行推進会議」でこう述べ、政府が進める観光支援「GoTo トラベル」などを続ける考えを示した。会議では、漁業体験ツアーなどに取り組む旅館女将や研究者らが好事例を報告。12月の次回会合では、コロナ禍による観光客減少対策を取りまとめるという。

 全国のコロナウイルスの新規感染者数は、会議前の12~14日に3日連続で最多を更新していた最中だったが、菅氏は「観光立国として生きていくために、感染対策と両立させながら何とか現状を乗り越える必要がある」と強調した。

新型コロナウイルス感染症対策本部会合で発言する菅首相(右手前から2人目)

新型コロナウイルス感染症対策本部会合で発言する菅首相(右から2人目)

 会議は菅氏が議長を、全閣僚が構成員を務め、観光産業を国の基幹産業にすることなどを目指す「明日の日本を支える観光ビジョン」の具体策を話し合う機関だ。2016年にまとめられたこのビジョンは、30年までに訪日外国人客を6000万人、外国人旅行消費額を15兆円にすることなどを目指す。

第3波の要因か

 菅氏が観光立国を重視する姿勢は、10月に初会合を開いた政府の「成長戦略会議」の人選にも表れている。メンバーとして選ばれた有識者8人のうちの1人は、経済ブレーンのデービッド・アトキンソン氏。同氏は「新・観光立国論」などの著作があり、日本は国内総生産(GDP)に占める観光収入が国際的に低く、観光業が今後の経済成長の柱になる、というのが持論だ。

デービッド・アトキンソン氏

デービッド・アトキンソン氏

 ただ、こうした観光立国優先が、現在のコロナ禍第3波に影響している可能性がある。米ジョンズ・ホプキンズ大のまとめでは、18日の感染者数は、韓国で343人、中国で21人にとどまる。日本もGoToトラベルの東京都内発着が対象になった10月1日時点では600人程度にとどまっていた。

 他のアジア各国の状況を考えると、季節的な要因だけでは「第3波」の急激な増加の説明がつかない。日本医師会の中川俊男会長は18日の記者会見で、両者の関連を問われ「エビデンス(証拠)がはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と懸念を示した。

人の移動が地方の感染リスク高める

 慶応大の小幡績准教授(行動経済学)はGoToの影響を「観光地に人が増えたことで、補助がなくても旅行していた富裕層は感染を恐れて動かなくなった」と分析。「補助がなければ旅行しない人の消費欲を一時的に刺激したことで、目先の景気対策にはなったが、キャンペーン後の継続的な景気浮揚にはつながらない。需要の先食いで、長い目で見たら逆効果だ」と指摘する。

 むしろ負の効果の方が大きいとみる。「GoToの利用者はコロナウイルスへの恐怖感が薄い人やリスクが低い若者が多い。そうした人の移動が増えたことで、地方の感染リスクが高まっている。政府は来年1月末としている実施期間の延長を検討しているが、延長する理由は何もない。やめるべきだ」

外需で地方潤す狙い

 そもそも「観光立国」なる言葉が使われるようになったのはいつからなのか。

 城西国際大の佐滝剛弘(よしひろ)教授(観光学)は「政策的な意味で使われるようになったのは2000年ごろからではないか」と解説する。

1月、外国人観光客らでにぎわう長野県の地獄谷野猿公苑。コロナ禍で大打撃を受けた=同県山ノ内町で

1月、外国人観光客らでにぎわう長野県の地獄谷野猿公苑。コロナ禍で大打撃を受けた=同県山ノ内町で

 「国内の製造業が海外移転を進めたころ。低賃金で済むと考え、地方にあった工場を海外に移した。地方にとっては都市部への人口一極集中も重なり、苦境に立たされた。そんな中で政府が目を付けたのが『観光立国』、つまり観光を柱に据えた地域づくりだった」

 日本のアニメや食文化などが海外で注目されだす中、「ターゲットになったのはインバウンドだった。『外需を取り込んで地方を潤す』というのが観光立国の考え方だった」。

 小泉政権だった03年1月には有識者による「観光立国懇談会」がスタートし、第1次安倍政権の06年末には、観光立国推進基本法が議員立法で成立した。そして麻生政権の08年10月に発足したのが観光庁で、国土交通省の外局として観光行政の旗振り役を担うことになった。

観光へどんどん転換

 疲弊していた地方にとっても「観光」は乗りやすい話だったようだ。

 「自治体が取り組む上では、企業誘致などと比べると費用的にも時間的にも低コストで成果が見込める。わざわざ他地域から人が来てくれるようになると、住民たちが地域に誇りを感じるようになる」(佐滝教授)

 農林水産業を営む人たちやその子どもたちが観光業で働くケースも目立つ。

 海外からの安い農水産物などが氾濫し、かつてのような安定収入が見込みにくくなっている中、「『これから先、大丈夫なのか』『やっていけるのか』と不安を募らせ、現金収入が期待できる業種へ転換してしまう」と元長野県職員で千葉商科大の田中信一郎准教授(政治学)は分析する。

「経済界のため」

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