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「五輪オーダー」って何?  安倍前首相に「金」 大会開催前に異例の授与

(2020年11月17日東京新聞に掲載)

 安倍晋三前首相が16日、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長から五輪オーダー(功労章)の金章を贈られた。過去の受章者にはスポーツ関係者が多く、首相経験者では初めて。五輪運動発展への寄与をたたえるとされるが、やや聞き慣れない五輪オーダーとは何なのか? このタイミングで、開催国の前首相に授与したことが意味するものを探った。(大平樹、中山岳)

1974年創設…選ばれる基準はあいまい

 「どんなにうちひしがれても、何度でもまた立ち上がる、人間の気高さをたたえる大会になります」

 5つの輪をかたどった金色の「五輪オーダー」をバッハ会長から首にかけられた安倍氏が、マスク越しに演説した。

 16日午後1時半ごろ、東京都新宿区の日本オリンピックミュージアムで行われた授与式。国内のコロナ禍が収まらない中、安倍氏は「日本国民に対して、頑張れ、絶対に成功させろと、励ましを送るつもりで、このオーダーをくださった」と東京五輪開催への意気込みを語った。

 バッハ氏は祝辞で「世界のスポーツにおける卓越した功績と、オリンピックの理想への忠実さ」を表彰理由に挙げた。安倍氏が2016年のリオデジャネイロ五輪閉会式で、人気ゲームキャラクター「マリオ」に扮したことを引き合いに「東京五輪の開会式で安倍氏がどんな衣装を着るのか想像しましょう」とも語り、会場の笑いを誘った。

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 安倍氏が贈られた五輪オーダー。五輪の歴史に詳しい奈良女子大の石坂友司准教授(スポーツ社会学)によると、スポーツを通じた心身の鍛錬やフェアプレー精神など、五輪の理念を広げることに貢献した人に贈られる。1974年に創設された制度だが、選ばれる基準はあいまいだ。

習近平氏、文在寅氏への授与は閉会後

 日本オリンピック委員会(JOC)によると、受章した日本人は安倍氏で63人目。中でも金章はIOCが贈る最高の栄誉とされる。過去には1998年の長野冬季五輪招致に大きな功績があったとされ、西武鉄道会長を務めた堤義明・元JOC会長と、元経団連会長の斎藤英四郎・長野五輪組織委員会会長しか受章していない。

 大半を占める銀章も含めて日本で最初に受章したのは、1964年東京五輪当時の都知事で、JOC名誉会長を務めた東龍太郎氏。その後は、女子初の金メダルを獲得した水泳の兵藤(旧姓前畑)秀子氏のような五輪メダリストが授与されたり、競技団体やJOCの委員を歴任した元スポーツ選手が受章したりするケースが多かった。

 ただ、スポーツ選手としての功績だけで受章するのはまれで、現役時に受章したのはスキージャンプの船木和喜氏くらい。五輪開催地の首長が授与されたこともあるほか、近年はスポーツ関連企業の役員など財界関係者の受章も目立つ。

 IOCの年次報告書を見ても、受章者一覧は掲載されていたりいなかったりする。IOCとしての扱いもよく分からないが、海外では、元IOC会長のサマランチ氏やロゲ氏らも金章を贈られている。

 五輪開催国の指導者では、18年に平昌冬季五輪が開催された韓国は文在寅大統領が、08年に北京五輪が開催された中国は習近平国家主席が、それぞれ金章を受章。ただ、まだ五輪が開かれていないのに金章が贈られた安倍氏と異なり、両氏とも受章したのは五輪閉会後だった。

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 五輪オーダーを受章した安倍氏は、東京五輪開催に並々ならぬ意欲を見せてきた。

 招致段階の2013年9月にIOC総会でスピーチし「(原発事故は)アンダーコントロールされている」と発言。当時は東京電力福島第一原発事故で地下への汚染水漏れが起き、海へ流出する恐れもあった。そんな状況で世界に大見えを切り、国内では批判も起きた。リオ五輪閉会式の「マリオ」の扮装も記憶に新しい。IOCはこうした活動を五輪オーダーにふさわしいと判断したのか。

「中止説一掃」か「おつかれさま」か

 前出の石坂氏は「安倍氏の行動が五輪の理念を広げるのにどれだけ貢献したかは、よく分からない。招致から熱心だったのに首相を辞めたので、バッハ氏が『おつかれさま』という程度の意味で授与したのではないか」と指摘。「授与するにしても、本来なら五輪開催時か開催後が筋ではないか」と首をひねる。

 五輪開催前の受章自体は過去にもある。前出の堤氏で、招致していた長野が開催都市に決まる約1カ月前の1991年5月に金章を受けている。

 元JOC参事でスポーツコンサルタントの春日良一氏によると、五輪オーダーの選考は一般的に各国の五輪委員会や国際競技団体が候補をIOCに推薦し、IOCが決める。IOC委員が個人的に候補を推薦して、受章者が決まる場合もある。長野五輪の招致を担当していた春日氏は、IOCのサマランチ会長に堤氏を推したという。

 サマランチ氏はIOC内で絶対的な力があったとし「堤氏の受章により、他国のIOC委員に『サマランチ氏は長野を応援している』というメッセージが伝わった。1カ月後のIOC総会で、長野は他都市との決選投票で五輪開催を勝ち取れた」と語る。

 五輪オーダーは五輪に関する唯一の勲章で、欧州では受章すれば大変な名誉とされる。春日氏は開催国首脳への授与について「バッハ会長は、スポーツで世界平和を目指す五輪の理念を広げるために国家元首とも対等に付き合いたいと考えている」とみる。

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