見出し画像

安倍政権が掲げた「2020年代初頭までに介護離職ゼロ」はどうなったのか

(2020年8月3日東京新聞に掲載)

 介護離職ゼロ。安倍政権が5年前に掲げた目標だ。ところが、両親ら家族の介護で仕事を辞める人は年間10万人近くに上る。「国策」はどうなったのか。自らの離職経験をもとに、介護をしながら働くのが当たり前の社会を目指す「ワーク&ケアバランス研究所」を経営する和気美枝さん(49)は「今ある介護の支援策を多くの人に知らせ、きちんと機能させるべきだ」と訴える。(中沢佳子)

「1億総活躍」に盛り込まれ"国策"になったが

 「政府が口にするまで『介護離職って、何』の状態で、誰も見向きもしなかった。家族を介護する人は当たり前にいたのに、注目されなかった。そこに光が当たった」と和気さんは介護離職ゼロを評価する。だが現状は「『介護離職ゼロ』はまだ遠い」。和気さんはきっぱりと言い切る。

 「2020年代初頭までに、介護離職をなくす」。安倍政権は15年9月に打ち出した「新三本の矢」で介護離職ゼロを掲げ、16年6月に閣議決定した「ニッポン1億総活躍プラン」に盛り込んだ。以降、介護が理由の離職を防ぐことは国策になった。

 政府は介護離職者のうち、介護サービスの不足が原因だったのは15%ほどと見込んで、特別養護老人ホームの整備や介護人材の待遇改善に着手。対策を講じる企業に助成金も出した。

「1億総活躍推進室」の看板を掛ける安倍首相(左)と加藤1億総活躍相(当時)=2015年10月=内閣府で

「一億総活躍推進室」の看板を掛ける安倍首相(左)と加藤一億総活躍相(当時)=2015年10月、内閣府で

 経団連や連合も社会問題としてとらえるようになった。和気さんは「以前から社員の介護を支援する制度を設ける企業はあった。ただ、介護離職が話題になって改めて調べると、制度が社員に知られていないケースがあった。制度は使われてこそ、と気付いたことは大きい」と語る。

特養を増やしても離職は防げない

 対策に乗り出した自治体もある。例えば埼玉県は今年3月、「県ケアラー支援条例」を制定した。家族の介護などを日常的に行う人への支援に関する推進計画を県につくるよう求めている。だが、こういった動きからは、大きな変化は生まれていない。

 和気さんは「介護離職の問題が『介護の問題』になっていることが気掛かり」という。どういうことか。

 「離職防止に必要なのは、介護する側が働き続けるための支援。介護を受ける人への支援ではない。介護職の待遇改善や特養を増やすこともいい。でも、それで介護離職を直接防げるわけではない」

親の介護を勤め先に相談できず

 家族、とりわけ親の介護は、多くの人が直面する身近な問題だ。しかし、親が要介護状態になると、現実を受け入れられない人は多い。勤め先や周囲に報告することすらためらってしまうのだ。だから、働き盛りの人には、葛藤をくみ取りながら、介護と仕事の双方から手だてを練る必要がある。それなのに、相談に応じられる人は少ない。和気さんはこんな問題点を感じている。自身がそんな経験をしたからだ。

 和気さんは以前、マンション開発会社に勤めていた。32歳の時、母が精神疾患になり、やがて認知症を発症した。介護と仕事が両立しきれなくなり、38歳で退社した。母を介護しながら1人で悩む日々。心の落ち着きを取り戻したきっかけは、介護に直面している人たちの集まりに参加したことだった。

この続きをみるには

この続き: 1,991文字 / 画像2枚

安倍政権が掲げた「2020年代初頭までに介護離職ゼロ」はどうなったのか

東京新聞 特報Web

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

ありがとうございます。いただいたサポートはさらに読み応えのある記事にしてお返しします!

ありがとうございます! 書いた記者に伝えます!
東京新聞で半世紀以上続く名物ページ「こちら特報部」の記事を配信します。モットーは「ニュースの追跡」「話題の発掘」。無料公開の公式サイト「東京新聞 TOKYO Web」https://www.tokyo-np.co.jp では読めない記事がここにはあります。

こちらでもピックアップされています

安倍政権の7年8カ月
安倍政権の7年8カ月
  • 33本

安倍政権の7年8カ月を「こちら特報部」の記事で振り返ります。(過去記事も随時、追加していきます)