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2050年までに「脱炭素社会」の実現へ 原発に頼らない道はある

(2020年10月30日東京新聞に掲載)

 菅義偉首相が2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げた。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの吸収量と排出量を均衡させ、実質的に排出をゼロにするということだ。結構な話なのに、原発頼みが強くにじむのはいただけない。原発に頼らないゼロへの道はないのか。研究や取り組みの最前線を追った。(大野孝志、中山岳)

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「原発ありき」の温暖化対策

「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と菅首相は26日の所信表明で述べた。よろしくないのは、実現に向けた手法に原発を持ち出したことだ。所信表明では「安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立する」と述べ、28日の衆院代表質問では「原子力を含むあらゆる選択肢を追求する」と答弁した。

 加藤勝信官房長官も26日の記者会見で「安全性が確認された原子力を含め、使えるものを最大限活用する」と発言した。どうやら政権は「原発ありき」で脱炭素社会の実現を考えているようだ。

 「原発に頼るくらいなら、電気が足りなくなっても我慢すればいい」。東京電力福島第一原発事故後、被災した福島県飯舘村で汚染状況を調べ続けている伊藤延由さん(76)が憤る。

 村内の山は除染できず、今もひどく汚染されている。村民の多くは避難先から戻れない。「原発が事故を起こせば、日常が一瞬にして奪われ、元に戻らない。それでも原発を動かそうなんて、何を学んだのか」

原発や火力優先は「時代遅れ」

 一方、核のごみ処分場の調査受け入れを巡って揺れる北海道寿都町。「子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会」会員でペンション経営の槌谷和幸さん(72)も原発ありきの温暖化対策を疑問視する。

 「原発は危険なごみを出し続ける。処分場がないまま原発を始めたエネルギー政策が間違いだったと認め、原発を止めて核のごみを増やさなくするのが、まず最初のはず。処分場を造ったら、原発は止まらなくなるのでは」

 ただ、排出ゼロへの道は険しそうな印象だ。原発に頼らず実現できるのか。

 「もちろん、できます」 断言したのはNPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長だ。太陽光、風力発電、電気を蓄える蓄電池。飯田さんはこれらの技術に触れ、「普及とともに日進月歩で向上し、それがさらに普及を後押しする。発電効率は上がり、コストは下がった」と語る。

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海岸線沿いに列をなして発電する風車=静岡県御前崎市で

 世界をみると、この10年で発電コストは太陽光が10分の1、風力が3分の1に。蓄電池の値段も5分の1になった。飯田さんはそう説明し、「太陽光と風力は付け足しのような電力だった。今や温室効果ガスを大量に吐き出す石炭火力より発電コストが安くなりつつある。進歩は今後も続く」と予測する。

 確かに多くの再生可能エネルギーは天候に左右されやすい。一方、利点は地産地消で「燃料」はタダ、温室効果ガスも放射能も出さないこと。

 飯田さんは「だから太陽光や風力を優先する方が理にかなっている。原発や火力を優先するのは時代遅れ。世界に追いつこうとするなら、主力電源を再生エネにして、需要に柔軟に対応しようという発想にならないと」と語る。

まずは徹底した省エネが必要

多くの研究者らが排出ゼロに向けた取り組みを進めている。

 「ゼロエネルギー建物」。千葉大大学院の倉阪秀史教授(環境政策論)は、断熱や省エネ照明・空調を備えたこんな家やビルの普及を提唱する。排出ゼロの実現には「まずは徹底した省エネが必要」と考えるからだ。

 「例えば3階建て以下はゼロエネルギーにするのを義務づけることも一案だ。今から建てられる建物は2050年まで使われる。CO2を出さないよう本気で考える必要がある」

 さらに、現在の大規模な火力発電は、発電時の熱を捨てている課題を挙げる。「電気と熱を同時に供給する設備(コージェネレーション)を各地に造り、今の火力発電と置き換えていくことが求められる。その上で再生可能エネルギーを増やせば、原発や石炭火力発電は必要ない」

太陽光、風力…原発50基分

 その再生エネの普及も進んでいる。

 名古屋大の竹内恒夫名誉教授(環境政策論)によると、太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマスといった再生エネ発電の設備容量(最大電力)は、2013年度~20年6月末までに5677万キロワット増えた。竹内さんは「原発50基分だ」と語る。

 竹内さんは「将来の人口減や、鉄・セメントなどの生産減を踏まえれば、日本のエネルギー消費量の大幅減少は続くだろう。さらに再生エネの電気が増えていけば、電気自動車を動かし、家庭・オフィスでエアコンや給湯機もまかなえる。ガソリン、灯油などは不要になる。50年のCO2排出量は13年と比べて約9割、削減できる」と説く。

 さらに、洋上風力や地熱発電はまだ増やす余地があるという。「それも含めれば、原発に頼らずに50年のCO2排出量の実質ゼロは達成できる」

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