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貧困の最前線を見続け30年 野宿者に寄り添う夜回り医師

(2020年9月28日東京新聞に掲載)

 東京都大田区の公園や路上で寝起きする野宿者を訪ね、地べたに座り込んで話し込む医師がいる。簡易宿泊所が集まる横浜・寿町の「ことぶき共同診療所」の越智祥太さん(52)だ。ゲリラ豪雨やドカ雪の日も月2回の定例日には必ず、配布用の下着と食料を携えて夜の街に繰り出す。貧困の最前線を見続けて、かれこれ30年。最近気になるのは、野宿者に対する社会全体のまなざしだ。昔と比べ、微妙な変化が生じているという。 (石井紀代美)

取りに来てもらうのではなく、訪ね歩く理由

 夏の暑さが落ち着き始めた9月上旬の午後8時半。JR蒲田駅前に、越智さんら、「蒲田・大森野宿者夜回りの会」のメンバー8人が集まった。野宿者に配るTシャツや靴下、弁当などを仕分け、それぞれ担当するエリアに散らばった。

夜の蒲田駅前=東京都大田区で

夜の蒲田駅前=東京都大田区で

 蒲田駅周辺を受け持つ越智さんは、物資で膨らんだ大きなバッグを持ち、野宿者がいつもいるという公園や店舗の軒下を目指した。

 物資や食料を配るだけなら、あらかじめ時間と場所を決め、野宿者に取りに来てもらう方法もある。その方が効率的なはずだが、越智さんは「普段、どんなところで寝ているのか、持ち物はどれぐらいあるのか、それぞれの生活状況はその場に行かないと分かりませんから」と、訪ね歩くスタイルにこだわる。

 目的地までの道のりは最短距離をとらず、建物の裏側や植え込みの陰に回り込み、新たな野宿者がいないか確認しながら進む。

コロナ不況のあおり?働き盛りの若者が

 歩いて約20分、小さな公園で1人目の野宿者男性と出会った。タンクトップにハーフパンツでベンチに座り、下を向いていた。

 「こんにちは」。2、3メートル離れた位置から越智さんが声をかけると、男性は「拒絶」の目をして素早く立ち上がり、足元の大きなバッグを担いで立ち去った。見た目は30、40代。肩や腕は、筋肉が若々しく盛り上がっていた。

 越智さんによると、この男性に初めて出会ったのは2カ月ほど前。弁当を受け取り、「今、仕事を探している」と会話に応じてくれたこともあった。

 「新型コロナウイルスの影響で仕事をなくした30、40代の働き盛りの若者が、ネットカフェから路上へと、少しずつ出てきています。彼も、コロナ不況のあおりを受けたのかもしれません」

 蒲田の相場では、安くて1万1000円ほどで1週間寝泊まりできるネットカフェがあるという。中には、決まった家を持たず、日雇いの仕事をしながらそこで生活する人もいる。「コロナの感染拡大で仕事がなくなり、しばらくは持ち金でネットカフェにとどまることができた人も資金が尽きて路上に出ている」と越智さんは説明する。

コロナの余波は空き缶回収にも

 コロナの余波は、思わぬ部分にも及んでいるという。野宿者の日銭を稼ぐ1手段、空き缶回収だ。以前は、リサイクル業者に持ち込むと1キロあたり170円前後で売れていたが、コロナ後は半値以下になった。

 業者が買い取った空き缶は最終的に中国に輸出され、リサイクルされるが、コロナで物流がストップし、国内に在庫がだぶついて値崩れした。経済のメカニズムが、社会の末端を容赦なく襲っている。

 社会の不条理も改めて味わわされた。コロナ禍の生活保障としてすべての国民に支給されるはずだった1人10万円の定額給付金も、野宿者は「住民登録がない」との理由で受け取れなかった。

しゃがみ込み、時には地べたに座って

 越智さんは、野宿者に会うたびに、その場にしゃがみ込み、時には地べたに座って話し込んだ。「下痢が続いている」と訴える人には下痢止めの薬を、足がぱんぱんにむくんでいる人には塗り薬を渡した。

 視線は真っすぐ相手の目に向かう。話題はかつての仕事や家族のことなど歩んできた人生全般に及ぶ。「お金が入ると、競馬や競輪に使ってしまって…」。自分ではダメだと分かっていても止められない様子の男性に「似たような人たちが集まって励ましあうサークルに参加してみたらどうでしょう」と語りかける。

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貧困の最前線を見続け30年 野宿者に寄り添う夜回り医師

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