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安倍政権時代から問われるメディアと首相の会食<過去記事無料公開>

 菅義偉首相は3日、東京・原宿のパンケーキ有名店「Eggs 'n Things(エッグスンシングス)原宿店」で、内閣記者会に所属する記者と会食しながら懇談しましたが、東京新聞は「懇談ではなく、9月16日以降開いていない記者会見を開き、日本学術会議の会員任命拒否など内外の問題について、国民に十分説明することが必要」との考えから欠席しました。
 東京新聞特報部は2014年12月の衆院選直後、安倍晋三首相(当時)と大手メディア幹部との会食を問う記事を掲載しました。6年前の記事ですが、このときの問題意識は今につながるものであると考えます。
 特報webの記事は通常、1本100円で販売していますが、特別に無料で全文を公開します。

(2014年12月20日東京新聞に掲載)

 衆院選直後の16日夜、安倍晋三首相が全国紙やテレビキー局の解説委員らと会食した。首相は2年前の就任以来、大手メディア幹部と「夜会合」を重ねている。最高権力者の胸の内を探るのはジャーナリズムの大事な仕事とはいえ、連れだって夜の町に繰り出しているようでは、読者・視聴者から不信をもたれかねない。ましてや相手は、メディア対策に熱心な安倍政権だ。メディアは権力を監視する「ウオッチドッグ」(番犬)と呼ばれるが、愛嬌(あいきょう)を振りまくだけの「ポチ」になっていないか。(沢田千秋、三沢典丈)

衆院選2日後、7社の幹部と完全オフレコで

 東京・西新橋の「しまだ鮨(ずし)」は、表通りから1本奥まった路地に立つ数寄屋造りの一軒家である。大きな柳の木と黒塀が渋い。16日夜、安倍首相はこの老舗で、時事通信、朝日、毎日、読売、日経、NHK、日本テレビの解説・編集委員らと会食した。やり取りは一切秘密の「完全オフレコ」である。

安倍首相が大手メディアの解説委員らと会食したすし店=東京・西新橋で

安倍首相が大手メディアの解説委員らと会食したすし店=東京・西新橋で

 夜会合の事実は、翌17日付各紙朝刊の首相動静欄で伝えられた。「ジャーナリズムの自殺」「『公正中立』って何ですか? 権力者とご飯食べて仲良しこよしすることですか?」。衆院選の投開票からわずか2日後の出来事ということもあってか、ツイッター上では、たくさんの人が辛辣(しんらつ)なコメントを書き込んだ。

 「こちら特報部」はランチタイムに立ち寄ってみた。入ってすぐに一枚板とみられる長いカウンターが延びる。ランチのにぎりは小鉢とみそ汁、デザートまでついて2000円からと、高級店にしては良心的な価格設定。小ぶりでほんのり甘いシャリとプリッとした新鮮なネタは、首相が気に入るのも無理はない。カウンターはスーツ姿の紳士ですぐに満席となった。夜は、さすがに高くて1人1万5000円以上はする。

「総理の話を直接聞くことは政治報道に役立つ」

 夜会合に出席した時事通信の田崎史郎解説委員によると、首相と親交がある記者の集まりで、2008年ごろから年2回ほど開催しているという。今年5月にもしまだ鮨に集まった。田崎氏は「会合の日程は衆院解散が決まる1カ月以上前から決まっていた。総理からお金はもらえないし、世間の目もあるので、総理の食事代はわれわれが払った」と説明する。

 首相とメディアの蜜月ぶりは誤解を招かないか。田崎氏は「総理の話を直接聞くことは政治報道に役立つ。取材するには相手方を知ることが大事。ぼくは総理に限らず、どの政治家にもおかしいことはおかしいと言う」と明言した。

メディアとの夜会合、歴代首相と比べても盛ん

 安倍首相の夜会合は、歴代首相と比べても盛んだ。13年1月の渡辺恒雄・読売グループ会長を皮切りに、朝日、毎日、日経、産経の全国紙や、フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日などのテレビキー局、共同、時事通信の社長や解説委員らと次々と会食した。さらに中日(東京)、中国、西日本などの地方紙の社長とも意見交換。首相のメディアとの夜会合は、この2年間で40件以上に上った。

 麻生太郎財務相は08年9月から1年間の首相在任中、庶民には縁遠い高級料亭やバー通いを批判されたが、そんな中でも、メディアとの夜会合は10件以下。09年9月から3年3カ月間の民主党政権でも、3人の首相が開いた夜会合は、読売の渡辺会長との2件を含む11件しか確認できなかった。

メディアの言い分は「公正な姿勢は変わらない」

 夜会合の頻度が比較的高いメディアの言い分を聞いてみた。

 毎日新聞は朝比奈豊社長や編集委員がたびたび会食している。同社社長室は「取材対象者と面談機会があれば直接会って真相や本音に迫るのは記者として必要。政権批判の筆が鈍ることはない」。日枝久会長が首相と夏休みを共にするほど親しいフジテレビ広報部は「社の幹部が首相と会っても、不偏不党、公正中立な報道姿勢が変わることはない」とコメントした。

 回数は多くないが、以前から政権寄りとの批判が付きまとう公共放送のNHKは「(会合に参加しても)放送法にのっとり、不偏不党、公平公正の観点から取材、報道している」(広報局)と回答を寄せた。

自分のやりたい政策を分かってほしいから

 マスコミOBや識者は、メディア幹部と首相の会食をどう見るか。

 元時事通信記者で政治評論家の屋山太郎氏は「外国でも、大統領が親しい記者と食事をするのは普通のこと」と肯定する。

 中曽根康弘首相を担当していた現役時代、1人で別荘に呼ばれ、深夜まで延々と持論を聞かされた。「自分のやりたい政策を分かってほしいということだった」と振り返った上で、「安倍首相の会食も同じ意図」と説く。「マスコミが権力を監視するのは構わないが、偏向は許せないとの思いがあるため、まず自分のやりたい政策を理解してもらいたい。だから、分かってもらえる記者だけを呼んで話をする」

 元フジテレビ記者で政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏も「会食は取材手法として有効」と認めるものの、「『オフレコ』などの慣行は、政治家とメディアの癒着を生みやすく、国民から記事の信ぴょう性を疑われかねない土壌がある。メディア側は自分たちを厳しく律する必要がある」と注文を付ける。

安倍政権で目立つメディア介入の動き

 なるほど政治とメディアの関係は危うい。特に安倍政権下では、メディア介入ともいえる動きが目立っている。

 13年11月、安倍首相は、NHK会長の任免権を持つ経営委員の人事で、作家の百田尚樹氏など自身に近い保守色の強い人物を選任。今年1月に会長に就任した籾井勝人氏は「特定秘密保護法はしょうがない」などと政権寄りの問題発言を連発した。

参院決算委員会で答弁を求めるNHKの籾井会長(左)。右はNHK経営委員会の浜田健一郎委員長=3月、国会で

参院決算委員会で答弁を求めるNHKの籾井会長(左)。右はNHK経営委員会の浜田健一郎委員長=2014年3月、国会で

 13年12月には、女性誌「VERY」が秘密保護法などをテーマにした座談会記事を予定していたところ、内閣広報室が「うちも取材して」と要請していたことが明らかになった。先の衆院選報道でも、自民党が「公平中立、公正の確保」を求める文書をNHKとキー局に送った。

会食を断ち切らなければ、メディア不信深まる

 「安倍政権はメディアを飼いならしたいのでしょう」と断じるのは、立教大の門奈直樹・名誉教授(メディア論)だ。近刊「ジャーナリズムは再生できるか」で論じた英国を例に、日本のメディアの行く末を案ずる。

 メディア王と呼ばれたルパート・マードック氏は「まさに会食で権力者にすり寄る経営手法」(門奈氏)だったが、政治とメディアの癒着として糾弾され、氏が率いる「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」紙は廃刊に追い込まれた。「今は世界的に、政治権力の周囲で広告会社などがメディア対策を行うため、政治とメディアは一体化している。この状態を問題視する英国民の間で『メディア・ワイズ(メディアに対して賢くなれ)』運動が起き、権力との癒着が告発されている」

 門奈氏は警告する。

 「マスコミを『マスゴミ』と称するように、現代人の意識の根底にはメディア不信がある。それなのに日本のメディアには、権力をストレートに批判しないといった政治的タブーが多すぎる。政治権力との会食など今すぐ断ち切らなければ、ますます不信が深まり、自らの首を絞めることになる」

 デスクメモ 日本テレビ系の衆院選特番に出演した安倍首相には、異様な印象を抱いた。スタジオとつながったイヤホンをしばしば外したのだ。首相は「音がうるさくて」と釈明したが、一方的にまくし立てているようにしか見えない。何かにつけて説明不足を指摘される首相である。この2年間を象徴する一コマだった。(圭)


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