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初の所信表明で議場は盛り上がらず… 菅首相の「演説力」を分析してみた

(2020年10月27日東京新聞に掲載)

 26日召集の臨時国会で菅義偉首相が行った初の所信表明演説。自慢の政策を多数並べたものの、いまひとつメリハリがなく議場は盛り上がらなかった。首相指名から40日も国会を開かず、「議論を避けている」と批判されていたが、一国の宰相となった以上、聴衆の心をつかむスピーチは必要ではないか。文字以外のパフォーマンスも含め、「演説力」を専門家に分析してもらった。(木原育子、榊原崇仁)

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話し手中心の棒読み

 26日午後2時、衆院本会議場。立ち話をしたり隣席の議員とおしゃべりしたりする議員が目立つ中、菅首相が一礼して議場に入ってきた。

 普段通りの紺色のスーツとネクタイ、そして白マスク。演壇に上がると、自民党席から起きた拍手も鳴りやまぬうちに、「このたび、第99代内閣総理大臣に就任いたしました」と話し始めた。緊張しているのか、両手で原稿を押さえ付け、微動だにしない。時折目線を上げるが、目は全く笑っていない。

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 原稿を見ながら所信表明演説を行う菅首相=26日、国会で

 「核になる言葉が全くないですね」。言語学者で米国ユタ大学の東照二教授が苦笑いする。演説には、さまざまな言葉に言い換えて伝える「リピート性」、国民との対話を入れる「ダイアローグ」、「ディテール(詳細さ)」、「ストーリー性」が必要だが、「驚くほどなく、レトリック(修辞学)も感激も何もなかった」と残念がる。

 東さんは2009年衆院選で菅氏の選挙演説を分析し、「話し手中心の単調なリポート・トーク」と指摘していた。それから11年たったが「リポート・トークの極致だった。これじゃあ『国民のために働く内閣』というより、『国民を見ない内閣』との印象を与えてしまう」と語る。

ヤジも拍手も少なく

 新型コロナ対策、デジタル庁創設、温室効果ガス排出ゼロ、地方創生、災害対策…と、演説の大半は政策の説明。東さんは「政策を語るのはいいが、ひたすら語る『羅列総理』と言っていい。聞き手の議員もつまらなかったのでは」と慮る。

 盛り上がった数少ない場面が、グリーン社会に向けた宣言。「脱炭素社会の実現を目指す」と大きめの声で訴えると、拍手が起きた。だが、それも一瞬。開始から15分も過ぎると、ヤジも単発で飛ぶぐらいになった。議場では新聞を読み始めたり、自席の机を見つめたまま動かなくなったりする議員も。

 一方、安倍晋三前首相は自席で腕組みをしながら、余裕の表情で眺めていた。隣席の伊吹文明元衆院議長と身ぶり手ぶりを交えて話し込み、演壇の現首相よりよほど動きがある。

これ以上求めないほうが正解?

 放送プロデューサーのデーブ・スペクターさんは、菅首相の演説を一杯のかけそばに例えた。「トッピングも足りないし、面白くもないけれど、まぁ…まずくはないし、一応腹もふくれたって感じかな」。ヒートアップする米国大統領選を連日見ているため、「余計に地味に思えた。予定調和だった」と語る。

 歴史上の逸話の引用もなし。例えば、01年の小泉純一郎元首相は長岡藩の「米百俵」の故事を引用し、「今の痛みに耐えて明日を良くしようという米百俵の精神こそ、今日のわれわれに必要ではないか」と呼び掛けたが、そうした表現も影を潜めた。

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「米百俵」の故事に触れ、所信表明演説をした小泉首相=2001年5月、国会で

 デーブさんは「菅首相に語彙力や表現力を鍛えよと今更言っても難しいだろう。パンケーキの話など入れても良かったが、そういう場でもないし、所信表明演説はこんな感じなので、これ以上求めない方が正解」とアドバイスする。

カメラマン「同じ顔しか撮れない」

 記者席のカメラマンからは「100回シャッター切っても100回とも同じ顔しか撮れない。金太郎飴状態で商売あがったり」とぼやく声も。演説が終わると、麻生太郎財務相が菅首相の椅子をさりげなく座りやすい向きに変え、ねぎらった。

 菅首相の演説を歴代首相と比べると、どんな特徴があるのか。語彙分析に詳しい同志社大の河瀬彰宏助教(人文情報学)に聞いた。

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