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菅首相の著書改訂版で不都合な記述削除 「政治家の覚悟」はどこに?

(2020年10月22日東京新聞に掲載)

 公文書も消すが、自分の著書の都合の悪いところも消す。菅義偉首相のそんな流儀が発覚した。20日に発売された首相著の新書「政治家の覚悟」(文芸春秋)は、2012年に単行本として刊行された際にあった公文書管理の重要性を訴えた部分がそっくり削除されていた。「モリカケ桜」などの安倍晋三前政権の疑惑で、再三問題になった公文書。菅政権でも隠したり、改ざんしたり、消去したりするつもりなのか。(榊原崇仁、石井紀代美) 

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特報1

「本屋lighthouse」の店内風景。これまでは文芸春秋の本も販売してきた=千葉市花見川区で

「やってはいけない罪が何重にも」

 菅首相の新書「政治家の覚悟」が文芸春秋から発売された20日。千葉市花見川区で書店「本屋lighthouse(ライトハウス)」を営む関口竜平さん(27)は投稿サイト「note」でこう書き込んだ。

 「文芸春秋より刊行された本を扱いません」

 「こちら特報部」が改めて尋ねると「文芸春秋は出版社としての矜持をないがしろにした。そんな会社の本を売って利益を得ることはできません」と述べた。

 憤る理由は明快だった。

 菅首相は野党時代の2012年、同名の単行本を文芸春秋から出版した。新書版の原典に当たる1冊だ。ここでは「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と強調したほか、東日本大震災の対応で議事録が残されなかったことに触れ「議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」とつづっていたのに、新書版ではごっそり削除された。

 関口さんは「やっちゃいけない罪が何重にも積み重なっているのが今回のケース。本来あるべき姿から大きくかけ離れている」と語気を強める。

 首相と同じ法政大卒の関口さんは大学院で英文学を研究した後、出版業界で働き、昨年5月に今の書店を始めた。売り上げに応じた寄付、雑誌の電子出版なども手掛ける関口さんは「本を通じて何を伝えるべきか」について、かねて深く思いを巡らせてきた。

「歴史が改ざんされかねない」

 「過去の経験を参照できるようにするのが本の役割。歴史を書き留めた本を読むことで過去を振り返り、うまくいった裏に何があったか、失敗の原因は何だったのか、学ぶことができる。豊かな社会の土台になるのが過去の経験であり、それを伝えるのが本になる」

 関口さんは「菅氏も過去を継承する意味を知っていたはずだ」と続ける。単行本版を見れば明らかだろう。それなのに「菅氏が要職を担った安倍政権では過去の公文書がないがしろにされた。今回の新書では継承の意味を説く記述が削除された。正しく歴史を伝える使命を持つはずの文芸春秋も認めてしまった」。問題は、新書の中で過去の継承が軽んじられただけではない。「新書版ばかりが流通すればこの先、菅氏が『過去の継承』の重みを説きながら、実践されなかった歴史が改ざんされかねない」

 危機感を抱いた関口さんは行動に出た。文芸春秋に対し、新書版の絶版や回収、削除分を盛り込んだ改訂版の刊行などを求めており、それが満たされないうちは同社の本を販売しないという。「うちは小さな店。一社の本を扱わなくても影響はそれほど出ない。大切なのは声を上げること」

 今回の件に関しては加藤勝信官房長官が「政府の立場でコメントするのは差し控えたい」と述べるなど、事を荒立てたくない空気が漂う。そんな中で関口さんは「懸念するのは、政治家にとって都合の悪い記述を内々に削除するという動きが他にも出ないかということ。出版に携わる一人一人が『自分に何ができるか』を考えてほしい」と語る。

特報2

9月、官房長官として記者会見する菅氏。公文書をめぐる数々の疑惑を「問題ない」としてきたが、首相としてどう答える=首相官邸で

菅首相の意思を反映した改変

 元の著書から削除されたのは、旧民主党政権を批判した第3章と4章。その分、官房長官時代のインタビューが新たに追加された。文春新書編集部は「特定の文言の削除を意図したものではなく、全体のバランスを考え、編集部の判断で割愛した」としているが、著者の意向を確認せずに、こんな改変はあり得るのか。

 大手出版社の編集者は、最初の単行本出版から年数がたった本について「アップデートしましょう」と著者に呼び掛けることはあると話す。ただ、「編集者の基本動作として、こちら側が勝手に記述をカットすることは絶対にしない。本の著作権は著者にあるので、最低限、著者の許可を得なければならない」と断言。少なくとも、菅首相の意思も反映した改変とみる。

 しかも、削除された部分はいわく付きだ。2017年8月、学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題で、政府内の会議録に加計学園側の発言が載っておらず、公文書管理の問題だと菅官房長官の定例会見で取り上げられた。その際、朝日新聞記者が、今回削除された部分を読み上げ、「その発言をしていた本人、記されていたのはどなたかご存じですか」と質問すると、菅氏は「知りません」と回答、話題になった。

「旧民主党政権批判のためでは」

 政治ジャーナリストの泉宏氏は「公文書管理について本当に思いがあるなら、自分が書いたことを覚えているはずだが、忘れていた。当時の民主党政権を批判するための方便だった、としか取れない」と語る。

 「会見という公の場でやりとりがあったのにそれを隠すような行為は露骨すぎる」と政治ジャーナリストの安積明子氏も批判する。

 第2次安倍政権では、公文書にまつわる問題が次々と発覚した。森友学園問題では、決裁文書から安倍昭恵・前首相夫人の名前などを削除する改ざん事件が発生。安倍氏の地元後援者やマルチ商法幹部が参加した「桜を見る会」の問題では、野党議員が資料請求をした直後、内閣府が招待者名簿を廃棄した。実際は防衛省が保有していたのに、国会議員に「不存在」と回答したイラク派遣部隊の日報隠蔽問題もあった。

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