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消滅可能性都市・神奈川県三浦市で、安倍政権の地方創生を考えた

(2020年9月3日東京新聞に掲載)

 退陣を表明した安倍政権が打ち出した看板政策の1つ、「地方創生」がうまく進んでいない。東京への一極集中は解消されず、政府は「東京圏の転入と転出を均衡させる」という目標の達成時期を2020年から24年度に延期した。日本全体で人口減に歯止めがかからない中で、解決策はあるのか。首都圏の一角でありながら活性化への道筋が見えない神奈川県三浦市を歩き、考えた。 (大野孝志、榊原崇仁)

県内唯一の「消滅可能性都市」の市

 東京都心から電車とバスで2時間弱。三浦市の中心、三崎港周辺に着く。古い建物が立ち並び、歴史を感じさせる近くの商店街はシャッターを閉じた店が多く、その中を時折、観光客や住民が行き交う。潮の香りが漂う街で地元の人に話を聞くと、一様に「若者の働く場がない」と嘆いた。

シャッターが下りている店が多い三崎港近くの商店街=神奈川県三浦市で

シャッターが下りている店が多い三崎港近くの商店街=いずれも神奈川県三浦市で

 「大きな工場といえば水産加工場。住む人はお年寄りばかり。(隣接する)横須賀市にそのうち吸収されるのでは」と海鮮丼店従業員の斎藤彩さん(36)は苦笑いする。頼みの観光も「都内や関東地方のナンバーの車で来る人が多いけど、みんな日帰り」という。

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 三浦市の人口は1994年の約5万4000人をピークに減り続け、地方自治法で市の要件とする「原則5万人以上」を2005年に割り込んだ。先月時点では約4万2000人。有識者組織「日本創成会議」が、将来の存続が難しいと推測される「消滅可能性都市」として14年にリストアップした県内1市7町1村のうち、唯一の市が同市だった。

三浦縦貫道や農業に活路探るが…

 水揚げされたマグロを切る「裁割(さいかつ)」の仕事を終え、大きなノコギリを洗っていた裁割組合従業員の向山(むかいやま)裕己(ひろみ)さん(78)は「孫たちは東京や横浜、千葉に出ている」と明かす。昭和の時代に全国有数の水揚げ量を誇ったマグロ漁は、遠洋漁業の衰退とともに下り坂だ。

 港から小高い丘に続く道は、曲がりくねった片側1車線。観光客が増える土日は激しく渋滞する。向山さんは「都心からのアクセスが良くなって市内の道も混まなくなれば、企業も誘致できるはず」と、横須賀市と三浦市を結ぶ「三浦縦貫道」のさらなる延伸に期待を寄せる。

 同市は、「三浦大根」に代表される農業も盛ん。港に面した第3セクターの物販複合施設「うらり」では、1階でマグロなどの海産物、2階で野菜などを扱う。「みうらみるく」を納品していた「コーシンファーム」農場長の伊藤和彦さん(49)は「地元を活気づけるには、助成金とか国に頼らず、自分たちが工夫してやっていかないと。うちも大手にはかなわないから、牛を育てるところから牛乳を売るまで自前でやり、差別化している」と胸を張る。

キャベツや大根などを栽培している畑=神奈川県三浦市で

キャベツや大根などを栽培している畑

市が進める活性化策は低調、地価も下落

 ただ、現実は厳しい。市は活性化策として、空き家に短期間住む「お試し居住」を進めているものの、移住に至ったのは17~19年度で10世帯。市の担当者は「市の総合戦略に基づいて企業誘致や観光にも注力している」と話す一方、課題は「整理できていない」と答えた。

 県内での格差も広がっている。川崎市の武蔵小杉や横浜市中心部などで人口増が続き地価が上昇している半面、三浦市は逆の流れになっている。毎年3月に国土交通省が発表する公示地価は、県内の下落率地点上位の多くを同市が占める

「不便さを楽しめる人に」民間の移住相談も

 行政とは別の動きも出ている。三崎港近くで移住相談所を開く合同会社「MISAKI STAYLE(ミサキ ステイル)」は3年前に活動を開始。メンバーの不動産業者を介し、30代を中心に12組26人が移住した。築50年以上の食堂を改装した事務所の2階には今も、移住希望の60代の夫婦と50代女性がお試し入居中だ。

 「中心部は駅から遠いし、店が閉まるのも早い。トイレはくみ取りが多い。こういう不便さを楽しめる人が移住する」とステイルの安原芳宣さん(60)。関西から移住した1級建築士のメンバー長坂絵理さん(34)は「チェーン店が進出するどこにでもあるような景観の街ではなく、個性が残る。産科の病院がないのが不安だけど、自然の中でのびのび子育てできる」と笑う。

地元の魅力などを語る安原芳宣さん(左)と菊地未来さん=神奈川県三浦市で

地元の魅力などを語る安原芳宣さん(左)と菊地未来さん

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