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終わっていないアスベスト被害 原告生存率3割…救済基金急いで

(2020年11月5日 東京新聞に掲載)

 ビルなどで防火材や断熱材として広く使われたアスベスト(石綿)を建設時に吸い込み、がんなどを引き起こしたとして、作業員や遺族が国と建材メーカーに損害賠償を求めた各地の民事訴訟で原告の勝訴が続いている。国などの責任を認める流れが固まった一方、長期に及ぶ裁判の間に亡くなる被害者も多い。被告側が救済基金をつくるよう求める声が上がる。(大平樹)

突然の息切れ、発作…肺がん手術で肺から石綿

 「いつも通勤で使っていた駅前の階段の途中で突然息が切れ、踊り場から上がれなくなった」。川崎市宮前区の元タイル工白田宏記(しらた・こうき)さん(73)は2009年の年明け、わが身に何が起きたのかをすぐには理解できなかった。見たこともない真っ黒いたんも出た。肺がんで、同年暮れに切除した右肺の一部から石綿が見つかった。

 山形県から中卒で上京して働き始めたのは1963年。東京五輪を翌年に控え、首都圏は建設ラッシュだった。工期に間に合わせようと必死に働いた。タイルを張る際、下地に使う接着剤や目地材から、キラキラとした粉じんが舞い上がった。石綿だった。「安くて使いやすかったから現場で重宝されていた」。同僚が天井や壁などに吹き付けている近くで作業したこともあった。当時は危険性を知らず、マスクもせずに大量に吸い込んだ。

「寝込んだこともなかったのに…」コロナに不安

 スキーとゴルフが得意で、「盲腸以外で寝込んだことがない」ほど体の丈夫さには自信があったのに、発症後はちょっとした運動でもすぐに息が切れるようになった。46年間働き続けた現場を泣く泣く離れた。

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訴訟の記録などを見返しながら「一刻も早い救済を」と訴える白田宏記さん=川崎市宮前区の自宅で

 3人の娘と7人の孫に恵まれ、定年退職後はのんびりと各地で趣味の登山でも楽しもうと思っていた。それが、長年連れ添う妻千恵子さん(73)と近所を散歩する時、坂を上り切ることすらできなくなってしまった。

 がんは転移していないものの、再発の恐怖は尽きない。せきの発作に備え、2種類の吸入薬も手放せない。今年は、新型コロナ感染への不安も加わった。呼吸器に疾患がある人は重篤になる危険が高いため、マスクや消毒液を慌てて買い求め、外出も控えている。

「最高裁は一刻も早く救済判断を」

 同じように身一つで上京した仕事仲間が、石綿が原因で苦しみながら亡くなっていく姿も目の当たりにした。問題を放置した国とメーカーへの怒りから、2014年に損害賠償を求めて訴えた原告団に名を連ねた。

 それに先立つ08年に提訴された首都圏の第1陣訴訟は先月、一連の裁判の中で初めて最高裁で結審した。原告勝訴が濃厚とみられている。白田さんは「国は積極的にアスベストを使わせてきた。メーカーも危険な物を利用して利益を得たのだから、責任を負うべきだ。提訴から時間がたち、亡くなっている原告も多い。最高裁は一刻も早く救済する判断を示してほしい」と求めた。

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口頭弁論のため最高裁に向かう首都圏第1陣訴訟の原告団=10月22日、東京都千代田区で

 少しでも早い被害者救済のために、何が必要なのか。首都圏第1陣訴訟で原告の弁護団副団長を務める鈴木剛(こう)弁護士(63)は「危険性を知りながら対策を怠った国とメーカーの責任は明らかとしても、訴訟に時間がかかり勝つまでの間に亡くなる人も出る。基金制度の創設が必要」と強調する。

勝訴多くても…長期化で亡くなっていく仲間たち

 作業員や遺族が国とメーカーに損害賠償を求めた訴訟は、これまでに全国で17件。地裁と高裁で出た判決15件の多くで国の責任が、8件は一部のメーカーの責任も認められた。近年は、労働安全衛生法で労働者と認定されていない個人事業主の「一人親方」にも、同様に賠償を命じる判決が続いている。

 原告の主張に沿った司法判断が出る一方、鈴木さんによると、17の訴訟で、作業員の原告計約900人のうち提訴時に死亡していたのは約400人。提訴後も230人以上が亡くなり生存率は約3割。鈴木さんは「亡くなってから補償するのでは遅い」と指摘する。

 救済制度が十分でないことも基金創設を求める理由だ。現状では医療費給付や月10万円余の「療養手当」、280万円の「特別遺族弔慰金」などにすぎない。

高度成長からバブル期の建材として

 望むのは、国とメーカーが半額ずつ出し合う制度。過去の判決で認められた賠償額を基に、死亡3000万円、病気は肺がんが2700万円など症状に応じた慰謝料の額を算出した。一方でメーカーの負担は「どの石綿が原因か特定できない」として、四日市ぜんそくを機にできた公害被害の補償制度同様、製造・販売量に応じた割合を想定している。

 吸い込むと肺がんや、がんの一種「中皮腫」などを引き起こす石綿は、財務省の統計によると2006年までに約1000万トン輸入された。高度経済成長期の建設ラッシュとともに輸入量が増加し、バブル期の1980年代から90年代にかけても多かった。

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