見出し画像

今も続く核実験被害…核禁条約発効で被爆国・日本が果たすべき役割は

(2020年11月16日東京新聞に掲載)

 来年1月発効が決まった核兵器禁止条約に、世界各地の核実験被害の研究者が注目している。核兵器の使用を禁じるだけでなく、被害者支援と環境汚染の改善、それに向けた国際協力も盛り込まれているからだ。米国の核の傘に頼る日本は批准していないが、実験が行われた太平洋の島々や旧ソ連などには今も大きな傷痕が残る。核実験被害に詳しい明星大の竹峰誠一郎教授(国際平和論)に、被害の現状と日本が果たすべき役割を聞いた。 (中山岳)

定期購読マガジン「どうなる?菅政権の行方」を作りました

核禁条約は今も続く核被害に目を向けた点で画期的

 「原爆が投下された広島、長崎や核実験が実施された各国では、住民の被害や環境汚染が今も続いている。核兵器禁止条約は、こうした核の被害に目を向けていることが画期的だ」。竹峰さんは、こう強調する。

 核禁条約を巡る日本の議論は核保有国にどう軍縮を促すかに偏りがちで、「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)」と広島、長崎の被爆者が明記されたことに注目が集まっている。しかし、第6条は、核兵器の使用だけでなく、実験による被害者への支援と環境汚染の改善を規定。第7条は、締約国が協力して被害者を支援するよう定めている。

旧ソ連が1949年に実施した最初の核実験で爆発させた原爆のきのこ雲(米国エネルギー省所蔵、平林今日子さん提供)

旧ソ連が1949年に実施した最初の核実験で爆発させた原爆のきのこ雲(米国エネルギー省所蔵、平林今日子さん提供)

 こうした条文は、1940年代半ばから、世界各地で大気圏や地下の核実験が繰り返されてきたことを踏まえている。米国、旧ソ連、英国、フランス、中国による核実験は合わせて2000回を超える。実験場周辺では軍人、労働者、周辺地域に住む住民たちが被ばくした。実験のために移住を強いられた先住民や、放射性物質の汚染で帰還できない人も少なくない。

日本にとって人ごとでも、過去の話でもない

 竹峰さんは「原爆を投下された広島、長崎と、各国の核実験による被害にはもちろん異なる点もある。ただ、核兵器禁止条約は核兵器の使用や核実験をいずれも人道問題と捉えている」と指摘。「各国がそれぞれの核被害について理解を深め、回復に向けた国際協力の枠組みをいかにつくるかが問われている」と唱える。

マーシャル諸島の住民に核実験の話を聞く竹峰誠一郎氏(右)=2004年(竹峰さん提供)

マーシャル諸島の住民に核実験の話を聞く竹峰誠一郎氏(右)=2004年(竹峰さん提供)

 竹峰さんは、米国による核実験が繰り返されたマーシャル諸島を中心に、国内外の核被害に関する調査研究を20年以上続けてきた。米国は46~58年に67回の核実験を実施。同諸島の1つ、ビキニ環礁で実施された54年3月1日の水爆実験「ブラボー」ではマーシャル諸島全域が汚染され、付近にいた第五福竜丸の乗組員23人のほか、高知県などの多数の漁船が被ばくした。

 第五福竜丸の乗組員には米国からわずかな見舞金が支払われたが、他の漁船の乗組員らはいまだに補償されていない。竹峰さんは「日本の核抑止論は核実験が行われた国の被害や汚染の上に成り立っており、日本にも関係がある。核実験の被害はその地域ごとのローカルな問題ではなく、過去の話でもない。人の被害や土地の汚染は今も続いており、次世代まで向き合わなければならない」と説く。

 核実験があった各地では、被害者が声を上げたことをきっかけに補償制度ができた。だが、どの地域でも補償の不十分さなどの課題を抱えているという。竹峰さんは「条約発効をきっかけに、各国の被害者たちが他国の被害状況や補償制度を互いに参照できるようにすることも重要だ。国を超えて被害者たちを『グローバルヒバクシャ』と捉え、国際協力を進めるヒントにつながるからだ」と語る。

基金が枯渇し補償ストップ…新たな環境汚染の恐れも

 各地の核実験を巡る被害や補償制度はどうなっているのか。

 マーシャル諸島では、1986年に米国が拠出した1億5000万ドルで基金を設立。被害者の訴えを受け付けて審査し、一括して補償金を払う「核被害補償法廷(NCT)」もできた。ただ対象は、核実験場だったビキニとエニウェトクに加え、ロンゲラップ、ウトリックの計4環礁に限られる。アイルックなど他の環礁でも住民の被ばくや環境汚染があったにもかかわらず、訴えは無視されてきた。

 そのうえ、現在は基金が枯渇し補償が止まっているという。竹峰さんは「NCTは閉鎖していないが、ここ数年、新たな補償を受け付けられない状況だ」と語る。

この続きをみるには

この続き: 1,498文字 / 画像2枚
この記事が含まれているマガジンを購読する
このマガジンを購読すると、菅政権に関する多様な話題を週3本ほどお届けします。月6本以上お読みいただけるのであれば、購読していただいた方がお得です。

2020年9月に発足した菅政権の行方を、独自の視点で切り込んでいきます。

または、記事単体で購入する

今も続く核実験被害…核禁条約発効で被爆国・日本が果たすべき役割は

東京新聞 特報Web

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

ありがとうございます。いただいたサポートはさらに読み応えのある記事にしてお返しします!

ありがとうございます! 書いた記者に伝えます!
4
東京新聞で半世紀以上続く名物ページ「こちら特報部」の記事を配信します。モットーは「ニュースの追跡」「話題の発掘」。無料公開の公式サイト「東京新聞 TOKYO Web」https://www.tokyo-np.co.jp では読めない記事がここにはあります。

こちらでもピックアップされています

どうなる?菅政権の行方
どうなる?菅政権の行方
  • ¥500 / 月

2020年9月に発足した菅政権の行方を、独自の視点で切り込んでいきます。