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安倍内閣支持率「爆上げ」の謎 辞意表明後に急上昇

(2020年9月8日東京新聞に掲載)

 安倍晋三首相が辞意を表明してから行われた世論調査で、内閣支持率が「爆上げ」している。辞意表明直後の8月30日に発表された共同通信の世論調査では56.9%で、そのわずか1週間前の調査から20.9ポイントも上昇。他の報道各社調査でも軒並み急上昇した。コロナ禍への対応のまずさなどから、直近まで第2次安倍政権発足以降で最低水準まで落ち込んでいたのに、「辞める」と言ったとたん、ここまで上がるのはなぜなのか。(石井紀代美、中山岳)

辞意表明前は過去最低レベルだったが…

 「これまで『辞めろ辞めろ』と言っていた層が、いざ辞めることになったら手のひら返しをしたということですよね。少し、無責任さを感じてしまいますね」

 7日、正午前のJR新橋駅前。ビルの日陰で休んでいた埼玉県川越市の会社員、増田紀之さん(31)はつぶやく。安倍晋三首相が辞任を表明する前も後も支持してきた。しかし、新たな政策を打ち出したわけでもないのに、世論の支持率は爆上がり。増田さんは「実は、そこまで安倍さんのことを嫌いじゃなかったのではないか」と首をかしげる。

 安倍首相が辞任を表明したのは8月28日。直後、報道各社が世論調査をしたところ、不思議な結果が出た。表明前の調査では軒並み内閣支持率が第2次安倍政権発足以降、過去最低レベルだったのに、いずれも急上昇したのだ。

 共同通信は前回比20.9ポイント増の56.9%。読売新聞も同15ポイント増の52%だった。民放・TBS系列のJNNにいたっては同27ポイント増の62.4%。朝日新聞の調査では「安倍首相の7年8カ月の実績をどの程度評価しますか」との問いに71%の人が「評価する」と答えた。

 「7年8カ月もやっていると、いいこと悪いこといろいろある」。昼食を取り終えたばかりの会社員、山田真さん(41)はこう語る。「長期政権の最後。みなさんが振り返ったとき、やってきた実績に目が向いたのではないか」

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安倍首相が辞任の意向を示したことを伝える街頭モニター=東京都新宿区で

「安堵の表れ」「野党再編に失望」「判官びいき」

 一方、安倍政権不支持の人は別の見方をする。さいたま市の男性会社員(65)は「不透明な情報開示、有権者に知られたくないことは隠すという態度は、本当に嫌だね」と眉間にしわを寄せる。念頭にあるのは森友学園・加計学園問題、桜を見る会の問題だ。支持率上昇については「辞めることに、みんな安堵していることの表れ。もし続けているのであれば、上昇していないわけだから」と語った。

 医療機関でPCR検査を受けてきたという女性会社員(42)は、次の首相に手を挙げている菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長について「顔触れがちょっと…、という感じはする」と率直に語る。「この三人よりは『安倍さんの方が…』と思った人が多かったんじゃないか」

 派遣社員の坂崎敏治さん(65)は「野党に期待したい人たちが、野党再編の動きを見て失望した結果じゃないか。前と代わり映えしないもの」と語る。自身は以前から、どちらかというと自民支持。「ただ、安倍政権には不満がある。モリカケ桜、全部そう。あやふやにして逃げるでしょう。みんな、野党にしっかりしてほしいんだけどね」

 中国で電子部品の製造会社を経営する男性(68)は「自民がいいけど、安倍政権は忖度官僚を増やしただけ」とし、こう批判する。「『私は病気です』と言われて『そうか大変だったね』と支持率上げるようじゃダメでしょ。日本人の『判官びいき』という悪いくせだと思う。感情論で評価するんじゃなくて、冷静に、やったことで評価できないと、日本人は世界で通用しないですよ」

政権末期の急上昇は異例

 過去の政権を振り返ると、内閣支持率が落ち込んだ末の退陣が通例だ。2007年9月に総辞職した第1次安倍内閣の同6月以降の支持率は、内閣改造で一時的に回復した時期を除き20~30%台に低迷していた。

 その後の多くの政権も、発足当初は50%以上の支持率があっても末期は10~30%台に下落。11年8月に退陣した菅直人内閣は、菅首相(当時)が同6月に辞意表明した後も、支持率低下に歯止めがかからず同7月に約17%まで落ちた。

安倍

8月28日に辞意表明した安倍首相

「閉店人気」が後押しか

 なのに、なぜ今回は政権末期に急上昇したのか。

 第一生命経済研究所の永浜利広・首席エコノミストは「長く続いた商業施設や飲食店が閉店する前に客が多く利用する『閉店人気』のような効果があったのではないか」と推し量る。

 閉店人気の一例は、東京都練馬区の遊園地「としまえん」が8月31日で閉園する前、惜しむ客が多く訪れたケースなどがある。永浜氏は「第2次安倍政権は歴代最長になり、雇用が増えるなど経済面、外交面で成果があったとみる人もいる。それ以前の短命だった自民、民主党それぞれの政権と比べれば結果を出したという見方が広がり、閉店人気の効果が加わったのではないか」と話す。

 一橋大の稲葉哲郎教授(社会心理学)は、第1次政権時と同じく病気を理由にした辞任表明だったにもかかわらず、支持率が上がった点に注目する。「前回は途中で投げ出した印象が強かった。今回、安倍首相は事前に準備して会見に臨んで自らの言葉で説明したため『潔さ』を感じた人も多く、よくやったとの評価につながったと考えられる」

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 9月2日に自民党総裁選出馬を表明した菅義偉官房長官

自民内「世間は路線変更望んでない」 

世論調査に詳しい埼玉大の松本正生教授(政治意識論)は「病気が理由だったため世間に『ご苦労さま』という意識が広がったのだろう。ただ、そもそも首相の辞任表明後に内閣支持率を調べる意味はあまりないのではないか」と疑問視する。

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