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福島第一原発事故の「めちゃくちゃ」被ばく論文に福島県伊達市民が憤る

(2020年10月4日東京新聞に掲載)

 東京電力福島第一原発事故の被ばくを巡る2つの論文で、福島県伊達市民の被ばくデータが同意なく使われた問題が尾を引いている。市議会の調査特別委員会が9月末、「(論文への)データ提供に同意した市民は1人もいなかった」と強く批判する中間報告をまとめたのだ。論文が撤回されても市民らの怒りは収まらず、地元では経緯の解明と責任追及が続く。 (片山夏子)

イギリスの学術誌に掲載された論文で…

 福島市から車で約30分。伊達市は福島県の北部にあり、戦国大名の伊達政宗で知られる伊達氏発祥の地だ。自然豊かな盆地で、桃やあんぽ柿の産地でもある。市内にある霊山(りょうぜん)は新日本百名山の1つとしても知られている。

 そののどかなイメージの山里が揺れている。9月24日の市議会。「論文内容の説明をするどころか、同意、不同意などを無視して執筆しようとしていた可能性が高い」と、調査特別委の菊地邦夫委員長が中間報告を読み上げた。

中間報告が公表された伊達市議会=福島県伊達市で

中間報告が公表された伊達市議会=いずれも福島県伊達市で

 報告が批判する論文は、東京大大学院の早野龍五名誉教授(物理学)や福島県立医大の宮崎真講師が作成した。市が提供した住民約6万人の被ばく線量データを基に生涯の被ばく線量を予測。2016、17年の2回に分けてイギリスの学術誌が論文を掲載した。その後、不同意の問題が発覚し、学術誌側は「倫理的に不適切なデータが使われていると確認した」と、論文を撤回した。

「倫理指針に違反」強く糾弾

 中間報告では論文作成の経緯を検証した。市はデータを研究機関に提供し、一部が公表される可能性があるという同意書を市民に示していた。しかし、報告は論文やその趣旨、内容を市民に説明していないことを指摘。医学研究の倫理指針に照らし、論文にデータを使ったことを無断だったと結論付けた。そして、「研究者が倫理指針に違反した上、研究者として行うべきインフォームドコンセント(十分な説明と同意)を怠った」と糾弾した。

伊達市議会の調査特別委員会が調べた市民の被ばくデータ提供についての資料=福島県伊達市で

伊達市議会の調査特別委員会が調べた市民の被ばくデータ提供についての資料

 論文を書いた早野氏と宮崎氏は報告についてどう感じているだろうか。取材に対し、宮崎氏と福島医大は「中間報告書は市議会に提出されたもの。コメントする立場にない」と述べた。

 早野氏も「コメントする立場にない」と答えたが、これまでは「同意の有無について市から説明はなく、適切なデータという認識で受け取った。同意のないデータがあると確認されたので、論文を撤回した」と説明している。

個人情報が記録されたCD-Rは行方不明

 市議会の高橋一由議長は、早野氏らの説明に納得がいかない。データには、研究機関への提供に市民が同意したかどうかを示す欄があるからだ。高橋氏は「同意欄があるのに、記載の有無を無視して、全市民のデータを使って論文にしている。同意の有無を知らなかったとする説明も納得できない」と憤る。

 ちなみに市側の報告書によると、市民約6万5000人のうち、同意したのが約3万1000人、不同意が約100人、記載がないのが約3万4000人だった。議会の中間報告では、同意の人も「説明不十分で同意なし」となるが、ほぼ半数はそのチェックすらなかったのだ。

 問題はほかにもある。早野氏らは、データを破棄したと説明するが、市側では確認していない。市が提供したCD―Rも行方不明になっている。氏名、住所、家族構成、所有している不動産など68項目もの市民の個人情報が記録されている。

「これからも追及を続ける」と話す高橋一由市議会議長=福島県伊達市で

「これからも追及を続ける」と話す高橋一由市議会議長

 高橋氏は「問題は多岐にわたり、めちゃくちゃだ。累積被ばく線量を過小評価しているなど、論文の内容にも問題がある。医学研究の倫理指針に違反しているばかりでなく、個人情報保護法などにも抵触するとみている。市議会は市民の代表として、今後もこの問題を追求していく」と語る。今後は特別委員会が研究者側や市側の関係者を呼び、聞き取り調査をしていく。

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