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秋葉原に「まちなか保健室」 悩める10~20代女性のよりどころに

(2020年8月31日東京新聞に掲載)

 10~20代の女性が数多く働く東京・秋葉原の近くに、彼女らの相談に乗る「まちなか保健室」が開設された。ちょっとおしゃべりに立ち寄る子、わらにもすがる思いで暴力から逃げ出してきた子…。体調や気持ちが優れない時に身を寄せてホッとできた学校の保健室のように、さまざまな事情を抱えた子がこの場に集う。そこから見えてきたものとは―。(木原育子)

虐待や貧困、暴力…被害リスク高い世代

 「自爆しそう」。東京都千代田区外神田の「まちなか保健室」。追い詰められた表情の10代女性が言葉を絞り出すと、相談員で精神保健福祉士の松田知恵さん(69)は「大丈夫だよ。よく来てくれたね」とうなずきながら答える。松田さんは「あえて次の約束はしないわね。ただ、私はまたあなたに会えるといいなって思っているの」。その言葉に女性は小さく首を縦に振り、保健室を後にした。


 家庭内暴力(DV)の相談員を40年近く担ってきた松田さんは語る。「押しつぶされそうな環境で生き抜いてきた人間は、自分の意思を出すのを無意識に恐れる。気持ちを言葉で言えたのはすごいことです」

まちなか保健室を訪れた女性(左)の相談に応じる小山さん=東京都千代田区で

まちなか保健室を訪れた女性(左)の相談に応じる小山さん=東京都千代田区で

 保健室ができたのは7月。性暴力から逃れた先のシェルターから今後の相談に来たり、家庭に居場所がなかったりと、来訪者はそれぞれが一筋縄ではいかない事情を抱える。

 運営するのは、弁護士や社会福祉士、保護司などでつくる一般社団法人「若草プロジェクト」。虐待や貧困などに苦しむ若い女性を支えようと2016年に発足した。18年10月には緊急避難できるシェルターをつくり、昨年4月からはLINE(ライン)での相談も実施している。

心療内科を保健室に、診察室は相談場所に

 施設の名称の由来は、日だまりのように安心して過ごせる保健室のような場所が街中にも必要との思いから。心療内科だった医院を改装し、待合室は訪れた女性同士がおしゃべりできるスペース、診察室は相談場所に生まれ変わった。

 精神保健福祉士のほか看護師、弁護士らが曜日ごとに交代で常駐し、それぞれの専門的立場から相談に応じる。多くの人に来てもらいたいと、若い女性が興味を持ちそうなアロママッサージや占いなども行っている。冷蔵庫や電子レンジもあり、軽食を取りながらの相談もできる。

 「あら、いらっしゃい」。8月下旬の午後、室長の小山みつ子さん(70)が明るい声で出迎えた。視線の先にいたのは「常連さん」という小百合さん(19)。小学5年の時にいじめに遭い、中学校は休みがちに。高校は通信制を選んだ。4人きょうだいの1番上で、家庭は、手助けが必要な自閉症の弟を中心に動いている。

 「何で私ばっかり我慢しなきゃいけないのってずっと思ってた」。家族とはしにくい会話もここでは思い切りできる。「居心地がいい。みんな優しいし、お菓子ももらえるし」と笑う。不登校の経験者らでつくる「不登校新聞」の記者になるのが目標という小百合さん。「いつか、まちなか保健室を記事にしたいと思っているんですよ」


 小山さんは言う。「保健室に来る子は人一倍、感受性が強く、大人がどんな反応をするかよく見ている。会話を楽しみながら、本当は何に苦しんでいるのか一緒に見つけていきたい」

居場所のなさから社会の暗部に…

 家庭などに居場所がないため街をさまよい、意に反して性風俗で働いたり、薬物に手を染めたりする10~20代の女性は後を絶たない。若草プロジェクト代表理事の大谷恭子弁護士は「家庭環境が複雑で安心して話せる大人が近くにいないまま育つと、自分の気持ちを打ち明けるのがいいことなのか分からず、孤立を深めてしまう。逃げ場所を間違えると簡単に暗部に足を踏み入れてしまうのが今の社会なのに」と訴える。

路上での客引きを警察官から注意される女性(右)=2017年6月、東京・秋葉原で

路上での客引きを警察官から注意される女性(右)=2017年6月、東京・秋葉原で

 戒能(かいのう)民江・お茶の水女子大名誉教授(ジェンダー法)も「彼女たちが抱える悩みは、家族の問題や貧困、性暴力など複合的で、社会の矛盾が凝縮している。早期の適切な介入が不可欠」と話す。

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秋葉原に「まちなか保健室」 悩める10~20代女性のよりどころに

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