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原発施設建設は住民の力で止められる…北海道ではどうなる

(2020年10月13日東京新聞に掲載)

 北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)が相次いで核ごみ最終処分場の調査に手を挙げた。調査に入れば国内初。とはいえ、10万年以上の管理が必要なスーパー汚染物質の持ち込みへの第一歩だけに、反発は強い。反対する住民が行政に意思を示す手段の一つが、住民投票やリコール(解職請求)など直接請求権の行使だ。寿都町では住民投票への動きが具体化。過去には投票で原発建設が止まったケースもあり、今後の動きが注目される。(大野孝志、中山岳)

寿都町長、突然の表明

 かつてはニシンで栄え、今も漁業と水産加工が盛んな寿都町は、秋サケのシーズンを迎えた。町の人たちは、サケを塩や酢に漬け込んで熟成させる飯寿司(いずし)作りや、イクラを採る作業に追われている。その町が大問題で揺れている。町が核ごみ(高レベル放射性廃棄物)最終処分場の文献調査に応募したのだ。

 核ごみは約20秒で致死量に達する放射線を発する物質。応募に反対する水産加工業者の若手らが中心になって「子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会」をつくり、調査を阻止しようと走り回る。

人影が少ない北海道寿都町の中心部=8月24 日、北海道寿都町で

人影が少ない北海道寿都町の中心部=8月24 日

 7日には調査応募の賛否を問う住民投票条例の制定を求め、有権者214人分の署名を町選挙管理委員会に提出した。地方自治法は有権者の50分の1以上の署名で、条例の制定や改廃を直接請求できると定めている。寿都町で必要な署名数は51。それを大きく超えたことになる。

 ところが片岡春雄町長(71)は翌8日に応募を表明し、9日には原子力発電環境整備機構(NUMO)に書類を提出。住民の意思を確認せず応募したことになる。片岡町長は8日の会見で「町が分断される前に判断したかった」と述べていた。

「町長は署名無視、やりたい放題」

 とはいえ、応募方針にはすでに強い批判が出ていた。町内でペンションを経営する槌谷和幸さん(72)は「町長は署名を無視してやりたい放題だ」と激怒する。

 8月下旬には、住民投票の直接請求とは別に町内外7800人分の反対署名が提出されている。反対派の幸坂順子町議(71)は「町内の複数の事業所で、署名するなという圧力があったとも聞く」と明かす。それでも提出時点で町民署名は695人分で、今は800人を超えている。

 今後は、直接請求による住民投票条例が制定されるかどうかが焦点になる。審議する町議会は「スムーズに行けば11月中に開かれるのでは」(町選管の担当者)という見通し。関係者によると議員は5対4で応募賛成派が多い。

隣に泊原発の神恵内村「反対には勇気が」

 一方、寿都町から40キロ離れた神恵内村。アイヌ語で「カムイ・ナイ(美しい神の沢)」に由来した漁村でも、寿都町の応募と同じ9日に高橋昌幸村長(70)が文献調査を受け入れると正式表明した。だが、元漁師の松館勝治さん(88)は「反対署名や住民投票の声は聞こえない。村長をリコールしたらと思うけど、寿都ほど盛り上がっていない」と語る。

 背景には、隣の泊村にある北海道電力泊原発の存在がある。原発の立地村と扱われ、交付金はピーク時で年4億円に上った。その金を学校の改修や漁業施設の整備、保育士や消防士の人件費などに充ててきた。

神恵内村から15キロほどの距離にある北海道電力泊原発=8月22日、北海道岩内町で

神恵内村から15キロほどの距離にある北海道電力泊原発=8月22日、北海道岩内町で

 村職員OBの松谷堅志村議(74)は「漁業の後継者は育たず、原発関連の仕事に就いている人も多い。人口800人ほどの村で隣近所は親類同然。大きな声で反対と言うのは、かなり勇気が必要だ」と明かす。

過去に建設止めた例は

 過去には何度も住民の反対運動や住民投票で、原発や核関連施設の建設が止まっている。

 2007年1月、高知県東洋町が最終処分場の文献調査に応募した。すると、住民が猛反対し、当時の町長は辞職。同4月の出直し町長選で反対派の新人が当選し、応募は撤回された。石川県珠洲(すず)市では、1975年に浮上した珠洲原発の建設計画に反対する住民運動が28年続き、北陸電力など電力3社は2003年12月に計画を凍結。06年6月の市長選で反対派の候補が当選した。

 そして1996年の新潟県巻町(現新潟市西蒲(にしかん)区)。東北電力の原発計画を住民投票で止めたのだ。投票結果では、反対が6割強を占めていた。住民投票を推進した市民団体「巻原発・住民投票を実行する会」は、中立の立場を強調し、成功につながった。元代表で、投票時に町長だった笹口孝明さん(72)は「住民投票前は賛否を表明せず、町民総意で将来の道を選択する必要があると投票を広く呼び掛けた」と振り返る。

 町内では各家庭に連日、賛成、反対両派のチラシが配られた。笹口さんは「原発は、町民とその子どもや孫の将来にも関わる極めて重要な問題。住民は賛否にかかわらず幅広い情報を得た上で投票することが大切だ」と語る。地域のつながりが強く、賛否分かれる問題に口をつぐむ町民が多かった。問題意識が高まり、投票日が近づき、はっきり意見できる人が増えた。

調査受け入れるだけで数十億円

 地元の未来に影響するのは最終処分場も同じ。なにせ、核ごみは10万年にわたり保管しなければならないのだ。その建設地選定は3段階で進んでいく。

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 第1段階は文献調査。寿都町、神恵内村はこれを受け入れた。約2年かけて資料で活断層の有無などを調べる。第2段階は概要調査。掘削して地質や地盤を調べる。期間は約4年。第3段階は地下に調査施設をつくって調べる精密調査で約14年かかる。

 調査を受け入れると、国から自治体に交付金が払われる。第1段階で最大20億円、第2段階で最大70億円になる。寿都町の一般会計予算が50億円余、神恵内村が20億円余だから、かなり大きな額だ。

交付金「もらい逃げ」狙う?

 気になるのは、片岡町長が1日、文献調査は第1段階で「最終処分場受け入れまで行く話ではない」と発言したこと。多くの町民は、交付金をもらって途中で打ち切る「もらい逃げ」を狙っていると感じた。そんなことは可能だろうか。

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