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来夏の五輪、安倍首相と共に去りぬ!? 辞めるからもう熱意なし

(2020年9月1日東京新聞に掲載)

 招致活動では「東京電力福島第一原発事故はアンダーコントロール」。今春には新型コロナウイルスの感染拡大期に「来夏までに克服」。安倍晋三首相はいずれも収束の見通しがないのに大丈夫と言い張り、東京五輪開催に異常な執念を見せてきた。だが、唐突な辞任表明で、来夏五輪の雲行きはさらに怪しくなってきた。「全国民のワクチン確保」の方針を表明したが、それで安全に開催できるかも不明。来夏、これでもやるのか。(木原育子、中山岳)

あの意欲はどこへ

 「開催国としての責任を果たしていかなければならないと思います」

 8月28日の安倍首相の辞任表明会見。東京五輪の今後を問われた安倍首相は淡々と「一般論」を語った。くしくも約5カ月前、新型コロナ禍で1年延期が決まった直後と同じ文言。「次のリーダーも当然その考え方のもとに目指していくんだろうと思います」と続けたが、思い入れはもう感じられなかった。

 その姿は、これまでの異常なまでの「開催意欲」からは程遠い。

記者会見で辞意を表明する安倍首相

8月28日、記者会見で辞意を表明する安倍首相

マリオになったり、いろいろ利用したり

 始まりは「(原発事故は)アンダーコントロールされている」発言。2013年9月にブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会のスピーチで、首相はこう力説した。

 東京電力福島第一原発事故からわずか2年半。13年4月に地下貯水池の汚染水漏れ事故が発生し、同8月に東電がようやく海への流出可能性を認めたばかり。海洋汚染は各国からの懸念も強く、漁業関係者からも怒りの声が収まらぬ中で、汚染水について「完全にブロックされている」と世界に言ってのけた。

 東京五輪の主会場になる新国立競技場(新宿区)の建設計画では、15年7月に工費が当初予定の1300億円から約2倍にふくれ上がることが判明し批判が集中したが、国会審議では「再設計は時間が間に合わない」と、当初はそのままで強行突破する姿勢を見せた。結果的に計画見直しを認めたが、それは同時期の安保法案強行採決による世論反発をかわす狙いだった。

 1年後の16年8月、安倍首相がこのドタバタ劇を払拭しようと乗り込んだのは地球の裏側だった。リオデジャネイロ五輪の閉会式で、任天堂の人気ゲームキャラクター「マリオ」に扮して登場。五輪憲章で政治利用は禁止されており、世界をあ然とさせてもなりふり構わずの姿勢を貫いた。

 今春の新型コロナ禍では、各国がPCR検査数などの感染症対策を整えていく中で、日本は世界水準に遠く及ばない検査数にとどまり、医療関係者に「五輪開催のためにわざと検査を抑制しているのでは」との疑念さえ抱かせた。

改憲そして自身を飾るために

 3月14日時点でも「無事予定通り開催したい」と強調したが結局、同24日のIOCのバッハ会長との電話で、「1年延期」を首相自ら提案。21年9月に予定されていた自民総裁選まで首相を続投し、自ら開催したいという思惑があったとみられる。

 なぜ安倍首相は、ここまで五輪にこだわったのか。

 政治評論家の有馬晴海氏は、「日本としては16年五輪を招致できなかった。その失敗を見ていて、誰もできなかった五輪を、俺は持ってきたんだというレガシーが欲しかったのだろう」と指摘する。

 17年には「20年の改正憲法施行」とぶち上げ、五輪と改憲をセットにしたい思惑も隠さなかった。有馬氏は「五輪が開かれれば経済特需も見込める。それらを花道に、東京五輪開催を有終の美にしたかったのは明らかだ」と語った。

来夏の開催を待つ国立競技場だが、安倍首相辞任でどうなるか=7月22日、東京都新宿区で

来夏の開催を待つ国立競技場だが、安倍首相辞任でどうなるか=7月22日、東京都新宿区で

ワクチンの先行き不透明

 新型コロナウイルスの収束が見通せない中、そもそも東京五輪を来夏に開けるのか。政府は来年前半までに国民全員分のワクチン確保を目指し、臨床試験や承認手続きの一部を簡略化するなどして間に合わせるという。

 ワクチン開発で先行する米ファイザーと来年6月末までに6000万人分、英アストラゼネカとは1億2000万回分の供給を受けることで基本合意した。接種し健康被害が出た場合は政府が補償し、製薬会社などの賠償責任は免除する方針だ。

 ただ、こうした企業で開発が進むのは遺伝子ワクチンと呼ばれる新しいタイプが多い。このタイプはウイルスの遺伝情報を体内に注射して細胞内でウイルスのタンパク質を作ることで免疫ができるとされるものの、実用化後も予期しない副作用が出る恐れもある。

 愛知医科大の三鴨(みかも)広繁教授(感染症学)は「日本は過去にもワクチンの副作用が問題になったことがあり、本当に安全性が確保されているか多くの国民が納得するためには一定の症例数の臨床試験が必要だ」と指摘。「政府が確保するワクチンに一定の効果があるにせよ、多くの人に打った場合、どれだけ予防効果があるかは時間をかけて確認しないと分からない。ワクチンを接種した全ての人が感染を防げるわけでもなく、万能でないことも理解すべきだ」と説く。

やっぱり来夏も…

 長崎大感染症共同研究拠点の安田二朗教授(ウイルス学)も、一般的にワクチン開発は実用化まで最低でも数年かかるとし「通常なら間に合わせるのは無理なところを見切り発車で承認することになる。安全性が保たれているかは疑問だ」と話す。ワクチンがあれば五輪は開けるという見方にも異論を唱え、「半年先に世界で新型コロナの流行状況がどうなっているかも分からない。ワクチンの有無にかかわらず、各国から人が集まる五輪を来夏に開くのは難しいのではないか」。

 来夏の五輪開催が無理筋ではないかという見方は、市民にも広がる。共同通信が7月に実施した全国世論調査によると、「開催すべきだ」は23.9%にとどまり、「再延期すべきだ」(36.4%)や「中止すべきだ」(33.7%)といった声が上回った。

後継首相には「貧乏くじ」

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