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契約していなくても、NHKに個人情報をいつの間にか収集されるかもしれない

(2020年10月23日東京新聞に掲載)

 NHKが受信料不払い対策として打ち出した「テレビ設置の届け出案」に反発が強まっている。未契約世帯の氏名などを自治体や電気・ガス会社に照会することまで求めており、監視社会を招くと懸念されているのだ。くしくも総務省は、菅義偉首相が総務相時代に掲げた「支払い義務化」「受信料値下げ」の2点セットを再び持ち出している。奇策の背景にある、菅政権とNHKの思惑を探った。(中山岳、大平樹)

「監視されてるよう」

 「テレビを買ったら届け出ないといけないなんて、私生活が監視されるようで嫌ですね」

 テレビの設置状況の届け出義務化を求めるNHKの方針に対し、東京都内の公園にいた女性看護師(72)は眉をひそめた。受信料は払っているものの、ここ数年の報道が政権寄りに偏っているように感じるという。「受信料を払いたくない人の気持ちもわかる。強制的に徴収する前に、公平な報道を心掛けてほしい」

 未契約者の住所や氏名などを、電気やガス事業者などから収集できるよう求めていることも評判が悪い。千葉県市川市の男性会社員(40)は「見ない人からも徴収する仕組みは納得いかない。知らないうちに住所などをNHKに把握されるなら、個人情報がだだ漏れになっているのと同じでは」と不満を述べた。

 ツイッター上でも、俳優のラサール石井さんが「怖いわ。ディストピア(反理想郷)感ハンパない」と反応。他にも「何様のつもり」「電波の押し売りはやめろ」といった批判が相次ぐ。

従わなければ訴訟も

 テレビの設置を確認するために、何かするつもりなのか。NHKは16日の総務省の有識者会議「公共放送の在り方に関する検討分科会」でテレビの設置届け出の義務化を要望したが、資料をめくっても、届け出を確認する具体的な方法は書かれていない。

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16日の有識者会議でNHKが提出し、テレビ設置届け出の義務化などを説明した資料

 代わりに強調されているのが、2019年度で未契約世帯が推計1372万世帯もあることだ。こうした住居は、誰が住んでいるか分からずテレビがあるか確認できないことも多い。訪問員が繰り返し足を運ぶなどするコストが年間300億円もかかり、居住者のクレームやトラブルも起きているという。

 こうした点を理由に、「テレビ設置の届け出義務化」と「居住者情報の照会」を要望。住所を基に、自治体や電力会社・ガス会社などに居住者の氏名や転居先を照会し、居住者を特定して郵送でテレビの設置届け出を求めるという。返答がなければ、支払いを求める訴訟を起こすことまで念頭に置く。訪問の手間やコストを掛けずに受信料を徴収することが可能になる。

受信料「強制徴収の流れ」

 受信料制度を巡っては、17年の最高裁判決が合憲と判断。テレビを設置した人は受信契約の義務があり、契約を拒む人にはNHKが訴訟を起こして勝訴が確定すれば契約が成立するとした。だが、NHKが居住者の知らないうちに情報を照会することには懸念が強く、NHK広報部は「会議の議論の行方を見つつ、具体的に検討していく」とする。

 立教大の砂川浩慶教授(メディア論)は「最高裁判決以降、受信料を強制的に徴収する流れが強まっている」と指摘。視聴者の情報を把握して受信料を徴収しようとする動きを危ぶむ。

 「NHKを見ない人や見たくない人にとって、何ら選択肢がないことが問題だ。国民の視点に立った議論がなく、個人情報を吸い上げて強制的に受信料を徴収する仕組みを目指しても、反発が強まるだけだ」

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総務省が入る中央合同庁舎第2号館=東京・霞が関で

 NHKの要望を総務省はどう受け止めているのか。放送政策課の佐藤英雄課長補佐は、前出の分科会で有識者らから家族構成など受信契約に必要ない個人情報までNHKに渡る懸念が示されたことに触れ、「慎重な意見が出た。NHKの要請は今すぐ善しあしを評価できるものでもなく、分科会での議論を見守りたい」と話す。

 一方、この分科会では総務省も、受信料の支払いを義務づける放送法改正を検討するよう求めた。放送法はテレビを設置した人にNHKと受信契約を結ぶことを義務付けているものの、受信料の支払い義務の根拠はNHKの受信規約しかないためだ。

 総務省側の説明資料によると、支払い義務の法制化とNHKが求めるテレビの設置通知義務が組み合わされることで、NHKは設置を通知せずに支払いを逃れた人に「割増金」を課せるようになるという。

受信料義務化でリストラが進む?

 受信料の支払い義務化を後押しする総務省の動きに、NHKはどう対処するのか。元NHK記者でジャーナリストの立岩陽一郎さんは「NHKは安倍政権、菅政権と良い関係を築いた。一気に義務化へ進もうとしているのだろう」と指摘する。一方で「義務化されれば受信料徴収を担当する営業局で必要なくなる職員も出る。現会長はリストラに意欲があるとされているものの、組合の反発も予想される。簡単なことではない」とみる。

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NHK放送センター=東京都渋谷区で

 義務化と並行して、菅政権は水面下で受信料値下げの圧力も強めているようだ。武田良太総務相は16日の会見で値下げへの考えを問われ「公共放送として国民の納得のいく対応をとっていただきたいと(前田晃伸会長に)申し上げた」と述べた。

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