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イージスが断念からたった1カ月で復活狙う裏に

(2020年7月31日東京新聞に掲載)

 政府が断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画で、レーダー部分をミサイル発射台から分離し、地上に置く代替案が浮上している。敵の攻撃目標になる危険性は変わらず、配備先でもめるのは必至だが、議論の行方は一向に見えない。米国と契約済みの装備を転用できるとされ、「敵基地攻撃能力」も導入されれば、まさに焼け太りだ。まさかの復活はあり得るのか。 (安藤恭子、佐藤直子)

「レーダー分離案」急浮上

 イージス・アショアの代替案が議論されたのは、自民党のミサイル防衛に関する検討チーム(座長・小野寺五典元防衛相)。計画断念を受け、6月末に立ち上がった。イージス艦の増艦など複数の案の一つとして防衛省から示されたのが「レーダー分離案」。地上に設置した高性能レーダーで弾道ミサイルを探知し、ミサイル発射機を積んだ護衛艦などから迎撃する。

 日本側はイージス・アショア用に米国と約1800億円の契約を結んでいるが、この案なら高性能レーダー「SPY―7」とミサイル発射装置が転用できる。計画断念の理由となったブースター落下の危険が回避できるのも利点という。

寝耳に水!配備先候補に

 では、どこに配備するのか。防衛省の担当者は「国家安全保障会議(NSC)の議論を踏まえ、今後省で検討していく」とするが、中谷元・元防衛相は本紙のこれまでの取材に「レーダーについては既に別の(航空自衛隊の)レーダーがある新潟・佐渡や長崎・対馬、鹿児島・甑島などへの配備も一案だ。周囲に人がおらず電波による住民への問題も起きない」と提案。ロイター通信の取材でも、全国28カ所の空自レーダー基地のうち2カ所にレーダーを設置できると指摘している。

陸上自衛隊新屋演習場へのイージス・アショア配備に反対する住民団体メンバー。防衛省の調査ミスなどで批判が噴出した=2019年11月、秋田市で

陸上自衛隊新屋演習場へのイージス・アショア配備に反対する住民団体メンバー。防衛省の調査ミスなどで批判が噴出した=2019年11月、秋田市で

 地元ではどう受け止めているのか。下甑島に空自分屯基地を擁する鹿児島県薩摩川内市防災安全課の阿南哲也氏は「自衛隊と島民の関係は良好だが、アショアは山口と秋田の計画と思っていたので…。防衛政策は国の専権事項。末端の自治体としては検討材料がない」と困惑する。

 弾道ミサイルを探知、追尾する地上配備型レーダーFPS5(通称ガメラレーダー)を配備する空自佐渡分屯基地(新潟県)から、2キロ離れた家に住む元高校教員の菊地一郎さん(84)は「レーダー目がけて敵から攻撃されたら、逃げようがない。佐渡島は全滅ですわ。今あるレーダーもなくしてほしいのに、さらにアショアのレーダーを置くのは反対」と憤る。

 同様に空自の基地がある長崎・五島列島の福江島では、人口減を背景に地元の五島市が2016年に陸自誘致を表明したが、具体的な動きは止まっている。福江島に生まれ育った「五島九条の会」事務局長の長門悦子さん(74)は「空自のトラックが行き交うのに、戦争を感じてぞくっとする。ただ、ここは国境離島。中国や北朝鮮への恐怖もあって、島民は一枚岩になれない。レーダーは本当に島を守ってくれるのかと問いたい」と話す。

攻撃目標になるのは変わらず

 一方、計画が断念された秋田、山口県の住民も、たった1カ月で代替案が議論されていることに怒り心頭だ。

 18日に秋田市で断念の報告集会を開いた「STOPイージス!秋田フォーラム」の佐藤信哉事務局長は「計画地周辺の住民は肩の荷を下ろしたと喜んでいたのに許せない。地上レーダーが秋田に来ないとも限らず、そうなれば敵の攻撃目標になるのは同じ」と憤る。

 山口県萩市の「イージス・アショア配備計画の撤回を求める住民の会」の森上雅昭代表(67)も「現地調査もせず一方的に計画地を選んで失敗したかと思えば、今度はレーダー分離案。先の撤回の不手際の検証もしていない政府は、まず検証結果を国民に示すべきだ」と批判する。

山口県の村岡嗣政知事(左端)らに謝罪する河野太郎防衛相(右端)=6月19日、山口県庁で

山口県の村岡嗣政知事(左端)らに謝罪する河野太郎防衛相(右端)=6月19日、山口県庁で

 防衛省が昨年五月に山口県で行ったイージス・アショア説明会の資料には、秋田と山口に絞る際の検討対象として、青森や山形、島根県西部の国有地も挙げられていた。

 山形県鶴岡市の「イージス・アショアを考える市民の会庄内」メンバーの村田則子さん(72)は、自宅近くに配備の「適地」か検討された地区がある。この春は防衛省がどんな調査をしたのか情報が入らず焦ったが、6月に計画が撤回された際の唐突さに「どんな裏があるのか」と警戒していたという。「地方の住民を無視した政府のやり方が腹立たしい。イージス計画は米国の国防のためでしかない」

 青森県平和委員会の大宮慶作事務局長も「県内には米軍三沢基地があり、つがる市の空自車力分屯基地にミサイル探知追尾システム『Xバンドレーダー』が配備されている。軍事要塞化された青森にこれ以上兵器の配備は許されない」と話す。山口県でイージス配備地とされたむつみ演習場の20キロ圏にある島根県益田市の福原宗男市議は「政府はイージスよりコロナ対策にお金をかけるべきだ」と訴える。

技術的に困難、人体への影響も懸念

 軍事ジャーナリストの清谷信一氏は、そもそも米国と契約した高性能レーダー「SPY―7」が、ミサイル発射機を載せる想定の海自イージス艦と互換性がないと指摘し、「レーダー分離案は技術的に困難だ」とみる。海自のイージス艦のレーダー波でも沿岸から50カイリ(約92キロ)沖合に出ないと運用できないルールがあるほど強いため、日本国内でイージスシステムを地上に置ける場所を探すのは困難という。

 「強力なレーダー波による人体や電子機器への影響は、離島の住民や近海を航行する船にも起こり得る。地元に丁寧な説明をせず突き進んだ結果、イージス・アショア計画は破綻したのに、その失敗を認めようとしない政治家の独善が、なおも続いている」

代替案の裏にある狙いは…

 自民党と防衛省は、イージス代替案と合わせ、専守防衛の原則を変えてしまう「敵基地攻撃能力」保持の議論も進めている。狙いは何か。

 明治大の纐纈厚特任教授(政治学)は「日米は今、軍事戦略の総見直しをしている。代替案が出ているのは、防衛族のお歴々にまず奇抜なアイデアも含めて意見を言わせ、議論百出を演出しているにすぎない。そのうち、これだという案を出してくる」とみる。

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