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コロナ倒産防げ!病院救うため大学助教はたった一人で立ち上がる

(2020年8月26日東京新聞に掲載)

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が「7月下旬がピークだった」との見解を発表するなど、流行の小休止傾向も見えるが、コロナ禍が医療機関に残したダメージは大きい。赤字が100億円になると訴える大学病院もあれば、患者の受診控えで収入が激減した街の診療所も。そんな中、ある大学助教が「国は赤字の病院を救ってください」と呼び掛ける署名活動で4万人超の賛同を集めた。医療機関のコロナ破綻を防ぐために、今すべきこととは。(木原育子、榊原崇仁)

自身もビックリ!4万人が署名

 「このような署名活動をしたのは初めてです。もちろんこれまで、議員会館に入ったことはありません」。東京・永田町の参院議員会館ロビーで、「医療を守ろうプロジェクト」代表の室生暁さん(30)は言った。

医療機関への財政支援を求め、国会議員に病院の現状などを説明する室生暁さん=東京・永田町の参院議員会館で

署名を集めた室生暁さん

 プロジェクトといっても、実質的に活動するのは、都内の医大病院助教で、臨床解剖学を専攻する研究者でもある室生さん一人だ。

 医療機関がコロナ禍で疲弊し、経営難に陥っている状況を心配していた。一方、インターネット上で、休校中の学費半額を求める動きやライブハウスを守る寄付などのアクションが活発化する動きも見ていた。「自分にも何かできるかもしれない」と思い立ち6月下旬、医療機関への財政支援を求めるネット署名活動を始めた。

 みるみるうちに署名数が増え「びっくりした」。当初は署名をどうするか考えていなかったが、数万筆を超えた8月上旬、「この声を届けなければならない」と思うようになり、各党議員への訴えを準備した。

各党行脚し直訴

 この日、持参したのは署名の呼びかけ文や集まった4万6276筆の名簿データなど。署名とともに寄せられた「予備費はマスクのためではなく、赤字の医療機関へこそ支払われるべきだ」「国会議員の報酬をカットして命懸けの医療を支援すべきだ」などのメッセージも添えた。

医療機関への財政支援を求め、共産党の国会議員に病院の現状などを説明する室生暁さん(右奥)=東京・永田町の参院議員会館で

医療機関への財政支援を求め、共産党の国会議員に病院の現状などを説明する室生暁さん(右奥)=東京・永田町の参院議員会館で

 この日最初に訪れたのは、共産党の小池晃書記局長ら。「1人でも声をあげていただいてありがたい」と声を掛けられると、室生さんは、コロナ専用病棟を設置するための設備投資や通常診療縮小(空床確保)に伴う収益減のため、月に数十億円の赤字を抱える病院が出始めていることなどを説明。職員の賞与カットをせざるを得ない切実な現状を訴えた。

 続いて訪ねた立憲民主党の逢坂誠二政調会長が「引き続き政府にしっかりともの申したい」と話すと、室生さんは「医療機関が倒産してからでは遅い。スピード感が必要だと思う」と真剣な表情。自民党の田村憲久政調会長代理は事務所との約束は取り付けたものの、本人とは会えず、資料を事務所秘書に手渡した。公明党は面会を申し入れたが、日程が合わなかった。

「ブルーインパルスより直接支援を」

 「コロナと闘う病院を支援する超党派議員連盟」共同代表を務める国民民主党の羽田雄一郎参院議員にも訴えた。室生さんは今後、議連を通じ署名を請願の形で国会に提出したいと考えている。だが、国会開会中でなければ請願は出せない。「早く国会を開いて。これでは与党は国民の声を聞かないという意思表示になる」と室生さん。

国による新型コロナウイルス対策の強化を訴える医療関係者らのデモ=5日、金沢市内で

国による新型コロナウイルス対策の強化を訴える医療関係者らのデモ=5日、金沢市内で

 社民党の福島瑞穂党首とは予算の使い道について語り合った。室生さんは「感謝のブルーインパルス飛行は、医療関係者にとってひととき、精神的に盛り上がったかもしれないが、必要なのは物質的金銭的な直接支援だ」と訴えた。

 結局、この日の各党への要望には5時間かかった。「医療は社会の根幹だが、いま一番、コロナ禍のあおりを受けている。支援は今すぐ必要だ」

コロナ受け入れ病院の8割超が赤字

 コロナ禍は医療機関の経営に多大な影響を及ぼしている。日本病院会などの病院団体が6日に発表した調査結果によると、全国の病院のうち、4~6月に赤字だった病院は全体の6割以上に上った。新型コロナの患者を受け入れる病院はより深刻で、8割超が赤字になった。

 相沢孝夫会長は「延期できる手術が先送りされたため、その分の収入が減った。利益率が高い人間ドックや健診が見送られたことも影響した。マスクや防護服などの感染症対策の資機材に支出が割かれた面もあった」と語る。

 病院によっては、コロナ対応のために病床を割かざるを得ず、稼働率が下がったケースがあった。人手を奪われ、通常の患者対応を減らすことを強いられた病院も少なくなかった。

「受診控え」で打撃

 そんな中でも収支に大きく影響を及ぼしたのは「受診控え」だった。

 相沢会長は「経営を左右するのは患者の数になる。数を減らした病院が多いため、赤字の割合が増えたのではないか。『医療機関に来ると感染してしまう』という誤解があったかもしれない」と語る。

 患者数の減少は、厚生労働省のデータからも明らかだった。

 同省が19日の中央社会保険医療協議会(中医協)で示した資料によると、5月に全国の医療機関で受診した患者数は、前年同月から20.9%減った。減少幅が特に大きかったのが小児科の46.1%。耳鼻咽喉科が41.7%で続いた。

赤字経営となった病院の割合

 診療所でも受診控えは顕著なようだ。

 日本医師会の全国アンケートでは、外来受診が前年より「大幅に減った」と回答した診療所は全体の52.3%、「やや減った」が38.3%に上った。その一方、長期処方の利用者が「大幅に増えた」「やや増えた」という診療所は79.4%に上り、電話などによる再診の利用者が「大幅に増えた」「やや増えた」と回答したのが46.3%になった。

 受診控えは、診療所側にも原因があるという。

 国立感染症研究所の元研究員で蔵前協立診療所(東京都台東区)の原田文植所長は「新型コロナの感染を心配し、発熱患者の診察に慎重な診療所があった。診察してもらえない患者さんはうちのように発熱外来があるところへ来る。経営的に見れば、うちのようなところは黒字になり得る一方、診察を控えた診療所は患者が離れてしまい、かなり苦しくなっていると思う」と語る。

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