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離婚後に親子を生き別れにしないために…「共同親権」日本でも導入を<過去記事無料公開>

 先日、「別居・離婚で配偶者に子ども連れ去られ、会えなくなるなんて…」という記事を配信したところ、多くの反響が寄せられました。
 この記事を執筆した佐藤直子記者は2019年6月にも、離婚後も実親2人が親権を持つ「共同親権」を取り上げ、東京新聞特報面に掲載しています。
 特報webの記事は通常、1本100円で販売していますが、特別に無料で全文を公開します。

(2019年6月23日東京新聞に掲載)

 年間21万人余の子が親の離婚を経験する日本。未成年の子を巡る両親の親権争いはしばしばドラマなどになってきた。そんな状況が変わるかもしれない。離婚後も父母で親権を持つ「共同親権」の導入を法務省が検討し始めた。離婚後に親の一方が親権を失う現行の制度は、離れて暮らす親と子が生き別れる原因になっているからだ。配偶者から家庭内暴力(DV)を受けた被害者を支援する人などから異論はあるものの、見直しを求める声は強い。 (佐藤直子)

突然のわが子との別れ…面会を条件に親権を譲ったが

 わが子との別れは突然だった。都内に住む税理士の竹内英治さん(51)は2006年、1歳9カ月の長男を連れて突然、実家に戻った妻から離婚を申し立てられた。家裁の調停で告げられた離婚の理由は4つ。「思いやりがない、感情をむき出しにする、独占欲が強い、嫉妬深い」

 竹内さんは一方的だと思いつつ、「離婚はやむなし」と決めた。問題は長男の親権だった。

 親権とは未成年者の子を監護養育し、その財産を管理し、子どもの代理人として法律行為をする権利や義務をいう。日本の民法は未成年者の親権について婚姻中は父母が共同、離婚後は父母の一方を親権者とする「単独親権制」をとる。

 一般的に親権を持つ親が子どもと同居する。竹内さんは親権を巡り妻と争いになった。家裁の調査官から「子どもは母親に育てられる方がいい」と諭され、竹内さんは長男との面会を条件に譲るしかなかった。

単独親権制度のせいで、不毛な調停や審判を…

 苦悩が始まった。「月1回」の面会交流は1回10分、最長でも30分で、4回目からは拒まれた。再び調停に持ち込んでも家裁は「同居親が同意しないとだめ」と冷ややかだった。

 竹内さんは改めて家裁に面会交流と親権者の変更を申し立てた。元妻は長男が入院したことを示す診断書を提出した。家裁は親権者の変更を認めるどころか面会交流の停止を決めた。代わりに2カ月に1回、元妻が長男の写真2枚と近況報告書、通信簿の写しを送る「間接交流」とした。

長男の近況を知らせる手紙を読む竹内英治さん。長男の様子が心配になる=東京都内で(一部画像処理)

長男の近況を知らせる手紙を読む竹内英治さん。長男の様子が心配になる=東京都内で(一部画像処理)

 長男と最後に会ったのは14年初夏だった。一緒にプラモデルを組み立てて遊んでいると、長男が「お母さんともう1度会って」「お父さんともう少し一緒にいたい」と言った。立ち会っていた支援団体の人が元妻に電話し、やっと15分延長の許可がでた。

 「足かけ8年に及んだ調停や審判は不毛でした。私も元妻も養育者として相手がいかに不適切かを主張するだけ。離婚後も親権が双方にある制度なら、こんなに争わなかったのに」

竹内さんが長男に送った年賀状の写し

竹内さんが長男に送った年賀状の写し

親権のない別居親が疎外される状況の打破に

 離婚の9割を占める協議離婚なら、父母の話し合いで親権者を決める。裁判離婚なら、裁判所が定める。親権のない別居親の立場は総じて弱い。16年度の厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」では、面会交流をしているのは母子家庭で約3割、父子家庭で4割強にとどまる。

 「共同親権運動ネットワーク」の宗像充さんは「日本社会には、子どもがいるなら離婚すべきでないという常識が根強い一方、離婚した後は、別居親は子どもの心身の安定のために会わない方がいいという常識もある。親権を持つ同居親の考えに左右されて、別居親が子どもの人生から簡単に切り離されている」と訴える。

 この「片親疎外」の状況を変えると期待されるのが共同親権制度だ。法務省は7月末をめどに、外務省を通じて欧米やアジア、中東の24カ国で親権の状況を調査する。

国際的には単独親権は”例外”

 親子法に詳しい鈴木博人中央大教授(民法)によると、欧米では共同親権が原則で、問題が生じる場合に限って単独親権となる。アジアでもシンガポールや韓国などで導入され、「離婚後の単独親権は例外だという考え方が国際的には強い」と指摘する。

 日本でも戦後、国の審議会で共同親権の採用が課題に浮上したことがあった。この時は本格的な議論にはならなかったが、時代とともに子育てについて意識は変わってきた。

手をつないで歩く父と子=都内で(本文とは関係ありません)

手をつないで歩く父と子=都内で(本文とは関係ありません)

 鈴木氏は「日本でも離婚後、両親が共同親権的に子を育てているケースはある。葛藤を乗り越えた親にまで、単独親権を強制する必要はない。両親に法的安定を持たせるためにも、原則は共同親権にして単独親権は例外とするか、共同親権を選択的に導入するか、法を見直すべきだ」と語る。

子どものために実親2人が親であり続ける

 「子どもの福祉、最善の利益」という視点も重要になっている。18歳未満の児童の権利を定めた「児童の権利条約」(日本は94年に批准)は、父母の双方と人的な関係や接触を保つ権利を尊重するとして引き離しを禁じる。「2人の親を持つのは子どもの権利」と考えるからだ。

 日本でも11年に民法が改正され、父母は離婚時に子どもの利益を最優先し、面会交流と養育費の分担について決めるよう明記された(766条)。家裁の調停では、子どもと別居親の面会交流は、DVや虐待など特別な事情がない限り認められている。とはいえ、合意できずに審判となるケースも多い。

 「民間団体などの仲介支援を利用しやすくして、葛藤が強い元夫婦でも面会交流を続けられる社会制度の整備を進めるべきではないか」。離婚・再婚を経験した家族を研究する明治学院大副学長の野沢慎司教授(社会学)は指摘する。

 「日本では親の離婚は多くの子どもにとって、片方の親が奪われ『ひとり親』家族になることを意味している。『ひとり親』は再婚する時に、新しいお父さん、お母さんが来たと、子どもに受け入れさせようとする。しかし、子どもにとっては、実親2人が親であり続けることは重要。両親が協力して子どもと関わり続ける努力が、子どもの自己肯定感につながる」

子どもの立場から見た「面会交流の大切さ」

 都内で臨床心理士として働くユカリさん(27)=仮名=は面会交流の大切さを実感している。3歳で両親が離婚し、初めは父、16歳からは母と暮らした。

 大学生になって1人暮らしを始めたころ、母から聞いた。「離婚のときにお父さんはあなたに『お父さんとお母さん、どっちがいい?』と聞いたの。あなたが『お父さん』と答えたからお父さんと暮らすようになったのよ」。ユカリさんは全然知らず、母に少し責められたような気がした。「子どもに父か母かと選ばせるなんて、残酷でしょ」

 救いだったのは、母との面会交流が続けられたこと。月1回、父は必ず面会場所までユカリさんを連れて行った。思春期になって父との暮らしがしんどくなり、つらさを母に気付いてほしくてリストカットを繰り返した時期もあった。再婚していた母は父と話し合い、ユカリさんが高校生のときに、裁判所に親権者の変更を申し立ててくれた。

 「父と母にも葛藤はあったでしょう。それでも私のために話し合ってくれた。私がもし両親の離婚によって母に会えないでいたら、私はずっと母をさがしていたと思う。2人で育ててくれたから、私は2人の親を失わずにすみました」。ユカリさんは両親に感謝する。

 デスクメモ
 食費、教育…。子育てにはお金がかかる。ところが本文に出てくる厚労省の調査をみると、養育費を払っている別居親はわずか4分の1。親としての責任感が薄れるのだろうか。その結果、貧しさにあえぐ親子がいる。共同親権を認めれば、少しは状況が改善されるのではないか。 (裕)


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