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少年法の改正って必要? 18、19歳の厳罰化に異論 再犯抑止には逆効果

 (2020年8月10日東京新聞に掲載)

 少年法の適用年齢の「18歳未満」への引き下げを検討していた法制審議会(法相の諮問機関)の部会は6日、引き下げの判断を見送った。一方で、家裁ではなく大人と同じ刑事裁判にかける犯罪の対象を拡大したり、実名報道の解禁を盛り込んだりで、専門家は「これでは実質的な厳罰化。子どもの更生を図る少年法の仕組みは崩壊する」と警告する。少年事件は年々減少しているのに、さらなる厳罰化が必要なのか。(佐藤直子)

「政治の顔色うかがった内容」

 法制審の「少年法・刑事法部会」が6日まとめたのは、少年法の改正に向けた要綱原案。改正民法の施行で2022年4月から成人年齢が18歳になるのを受け、少年法の適用年齢も「18歳未満」に引き下げるべきか―を最大の焦点に、17年3月から議論を重ねてきた。

 原案では、少年法の適用年齢については明言を避けた。ただ、18歳、19歳の少年の事件はすべて家庭裁判所に送られる。その一方、家裁が「刑事処分相当」と判断し、検察官に逆送する対象事件を拡大する。

 「原案には肝心な部分にあいまいさがあり、政治の顔色をうかがった玉虫色の内容と言われても仕方がない」。少年法に詳しい九州大の武内謙治教授(刑事法)はこう指摘する。原案の内容が、先月末、自民・公明両党がまとめた合意案とほぼ同じであり、法制審は「それを強く意識している」とみるからだ。

特報

少年法改正に向け法制審部会がまとめた要綱原案

 中でも“最大の欠陥”とみるのは「18、19歳が少年法上の少年なのかどうか。それが明確に示されなかったことだ」という。

 原案は「18歳、19歳は民法で成人と位置付けられた一方、十分に成熟しておらず、可塑性(変わりうる可能性)がある」とし、刑事司法制度上は「18歳未満とも20歳以上とも異なる取り扱いをすべき」とした。そして「18歳および19歳の年齢区分のあり方や、呼称については、国民意識や社会通念などを踏まえたものが求められることに鑑み、今後の立法プロセスでの検討に委ねる」として判断を避けた。

 武内氏は「つまり『国会で議論してください』ということ。法律の専門家が3年余も議論してきたのだから、政治に丸投げするのではなく、専門家としての見解を示すべきだった」と批判する。

現行法は少年の更生に機能

 そもそも今回、多くの実務家たちが少年法の改正に疑問を投げかけている。むろん少年犯罪の被害者や遺族からは「成人年齢の引き下げに対応するべきだ」という声も上がるが、専門家らが指摘するのは「改正を必要とする合理的根拠が乏しい」ということだ。

 罪を犯した少年は更生教育の対象とされ、特別なケースでなければ大人と同じような刑事裁判には付さず、家裁での審判によって、更生のために最も適した処分が選ばれてきた。だが2000年の少年法改正で、故意の犯罪行為で被害者が死亡した事件では「検察官に逆送」が原則とされ、厳罰化の流れが明確になる。今回の法制審の議論も途中までは、少年法適用年齢の引き下げを求める自民党の意向を受け入れるように、「引き下げありき」で進んできた。

 これに対して少年司法にかかわる専門家からは「現行の少年法は少年の立ち直りにうまく機能している。なぜ改正するのか」という異論が噴出していた。

刑法犯少年の検挙数は15年連続減

 少年法が有効に機能していると考えられる理由の一つに、少年事件の減少傾向がある。

 警察白書によれば18年の刑法犯少年の検挙数は、前年比12%減の約2万3000人。15年連続で減った。重大事件もほぼ横ばいで減少傾向の中にある。こうした事実を前にしたとき、実は法務省サイドも、法改正を必要とする合理的な理屈は立てられなかった。

少年法表

 元家裁調査官の伊藤由紀夫さんは「18歳、19歳を少年法の枠組みから外して、刑事手続きに乗せてしまうと、窃盗など軽微な事件なら不起訴処分や罰金刑で終わる。それでは家裁が介入する機会を失い、少年の問題性にも気づけない。立ち直りのための教育もできずに家裁の実務の形骸化を加速させ、むしろ再犯リスクのある人を放置することになる」と指摘する。

 少年事件を担当した元裁判官の有志177人も、適用年齢引き下げに反対する連名の意見書を法制審に出してきた。呼び掛け人のうちの一人、大塚正之弁護士も伊藤さんと同じ懸念を訴える。「罪を犯した18歳、19歳の少年に向き合うと、この子たちには刑事処分ではなく、更生のための教育こそ必要なんだということが、実務をやっている者なら肌感覚で分かる。脳の発達の面からも大人と同じ刑事罰を科すことは非行の抑止力にはならない」

特報1

法制審の少年法改正要綱原案を批判する石井小夜子弁護士=東京都新宿区で

 数多くの少年事件で付添人を務めてきた石井小夜子弁護士は「法制審の原案は、形式的には全事件を家裁に送致となっているけど、罪を犯した少年に何が足りなかったのかを考える少年法の理念とは違い、犯した行為を基本にして処分する。厳罰化もそこからくる。実質的に適用年齢を引き下げたことに等しい」と批判の先頭に立つ。

 「18歳、19歳の少年を刑事裁判にかける罪の範囲を拡大し、それ以外の犯罪でも犯した行為で処分を決めていくことになれば、犯罪事実だけで処分を決める傾向が一層強まる。『日本の少年法は成功している。なぜ変えるのか』と海外から何度も聞かれた。それは18歳、19歳がきちんと手当てされているから。『少年に甘い少年法』と言われてきたが、罪は軽くても処分は重いこともある。実は厳しい面も多いのです」

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