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野生キノコから基準値超えセシウム ネット・直売所の監視が急務

(2020年11月4日 東京新聞に掲載)

 東京電力福島第一原発事故の影響で、インターネット通販や直売所で売られていた野生キノコから、食品基準(1キロ当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムの検出が相次いでいる。半年前に基準値超えの野生の山菜が出回った教訓を生かせず、またしても消費者が手にしかねない事態に陥った。(大野孝志)

「子どもの頃から採ってるキノコを人に分ける感覚」

 群馬県北部の山あいの街は日が沈むと、ぐっと冷え込んだ。気温6度。山林での間伐の手伝いから帰った男性(65)は「寒いけど、金がなくてね」と暖房をつけず、家の中でジャンパーを着込んだ。本業の飲食店はコロナ禍で客足が遠のき、春からずっと閉じている。

 基準値超えのキノコの存在は、福島市のNPO法人「ふくしま30年プロジェクト(30プロ)」と木村真三・独協医科大准教授の測定で分かった。男性がネット通販で売った野生のコウタケから、205ベクレルのセシウムを検出した。食品衛生法違反となる。男性は「俺のキノコを勝手に測りやがって…。いや、そういうことを言っちゃいけないな。人に迷惑をかけるなら、キノコはもう、やめだ。日雇いで稼ぐよ」とうなだれた。

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群馬県の男性が発送し、NPO法人の測定で基準値を超えたコウタケ=ふくしま30年プロジェクト提供

 「出荷しているという意識が自分にはない。子どもの頃から採っているキノコを、採りに来られない人に分ける感覚でいた」という男性は産地の表示をせず、地元の野生キノコに出荷制限がかかっていることを知らなかった。「保健所から直接言われた記憶がない」

フリマアプリ、ネットオークションで多数流通

 30プロは9~10月、フリーマーケットアプリ「メルカリ」とオークションサイト「ヤフオク!」、個人や業者のネット通販で関東甲信、東北地方から出品された野生キノコを買い、測定した。10月30日までに64件を測り、うち20件が基準値を超えた。

 宮城県気仙沼市から発送のコウタケが1830ベクレル、群馬県みなかみ町のウラベニホテイシメジが486ベクレル、茨城県常陸太田市のコウタケ、アミタケ、サクラシメジは509~135ベクレルだった。30プロは地元の福島市保健所に通報。発送地を管轄する保健所が出品者を特定し、食品衛生法に基づき自主回収や廃棄を求める。常陸太田市の野生キノコは出荷自粛になっている。

 同じことは半年前にも起きている。ネットで売られていた野生の山菜コシアブラの基準値超えが相次いだ。山は除染されておらず、原発事故による汚染は広がったまま。コシアブラと同様にセシウムを吸着しやすい野生のキノコでも、同じ事態が予想された。

春の山菜も…半年前の教訓生かせず

 だが、食品衛生を担当する厚生労働省は、ネット通販で売られている物を抜き打ちで買う検査をしていなかった。食品監視安全課の中矢雄太専門官は「本年度は予算がなくてできなかった。来年度からの実施を考えている」と述べた。

 厚労省は10月19日、ネット通販事業者8社に、産地を確認し、出荷制限されている場所で採れた物を売らないよう、出品者に呼び掛けることを求めた。メルカリとヤフオク!の広報担当者は取材に「出品者に注意を呼び掛け、関係省庁との協力や監視の強化を進めている」と答えた。

 野生キノコは街道沿いなどの直売所でも、よく売られている。木村准教授は8月以降、無作為に選んだ栃木県と東北地方の直売所や飲食店などで9件を買って測定。基準値を超えたのは2件のチチタケで、同県北部の飲食店の物が277ベクレル、福島県南会津町の直売所の物が113ベクレルだった。

東北・関東と広範囲&採取地の特定が困難

 福島県が通報を受けた時にはシーズンが終わっていて直売所にチチタケがなく、食品衛生法違反は確定しなかった。また、南会津町に出荷制限はなく、県は出荷前に検査をしている登録業者から仕入れるよう直売所に指導した。

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野生キノコの汚染状況を測定したゲルマニウム半導体検出器=福島県二本松市で(木村真三・独協医科大准教授提供)

 一方、栃木県の飲食店の物については8月、基準値超えに気付いた県内の市民団体が県森林事務所に知らせた。事務所職員が店を訪ねると、飲食店は「南会津産」というだけで採取地がはっきりせず、売らないよう指導。店が従ったため、検査権限のある保健所や、福島県に連絡しなかった。

 その後の指導でも採った場所を特定できず、法律違反が明確にならないままシーズンが終わった。栃木県林業木材産業課の稲川透課長補佐は「検査は採取された都道府県で行うので、産地が確定しないとできない。今後は保健所との連携を強める」と説明。飲食店の女性(78)は「南会津町のいろんな所で買っているから、誰から仕入れたチチタケが基準値を超えたのか分からない」と述べた。

山の幸はシーズン短く行政の対応が間に合わない

 卸元の一つの女性(69)は、原発事故後、地元のキノコを森林事務所で毎年測ってきたとし「うち以外から仕入れたんだろう。生活がかかっているから安全を確かめないと。もうけようとして何でも売る人がいるから迷惑する。野生キノコの販売を許可制にすればいい」と提案した。

 各県は直売所などを巡回し、産地表示や検査をして売ること、産地に出荷制限がかかっている物は売らないことなどを指導し、店頭の物の検査もする。ただ、各県の担当者は「直売所は相当な数があり、回り切れない」と明かす。

 NPO法人や研究機関など民間と連携すれば、監視の目と手は増えるはず。だが、民間の測定で基準値超えが判明しても、処分は売る人の不利益になるだけに保健所で測り直すところから始め、採取した人と場所を特定する必要がある。野生キノコは品種ごとのシーズンが短く、早く対応しないと間に合わない。

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野生キノコから基準値超えセシウム ネット・直売所の監視が急務

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