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学術会議問題のキーマンに浮上した「陰の総理」杉田官房副長官とは

(2020年10月16日東京新聞に掲載)

 日本学術会議の新会員任命拒否問題で、杉田和博官房副長官(79)が任命の可否を判断して菅義偉首相に報告していたことが明らかになった。警察庁出身の杉田氏は7年10カ月の長期にわたり、事務方トップの現職を務めている。拒否した理由は分かっていないものの、1人の官僚がこれほど重要な判断をして許される理由、その狙いは何なのかを考えた。(中沢佳子、石井紀代美)

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安倍政権時から学術会議に対する窓口

 「杉田氏は安倍政権の時から、日本学術会議の問題に関する『官邸の窓口』だった。その延長線上で今回も主体的に動いたといわれている」。政官界の事情に詳しいジャーナリストの鈴木哲夫氏はそう明かす。

 鈴木氏によると、2013年に成立した特定秘密保護法などに批判的な会員が少なくなかった学術会議に対し、政権内で15年ごろから不満が高まった。そこで動いたのが杉田氏。16年の補充人事で後任候補者を決める前に説明を要求し、17年の改選時には、前年の経緯を踏まえ、大西隆会長(当時)に選考途中の候補者リストを出させたことが明らかになっている。

杉田

沖縄県の翁長知事(右)との協議に臨む安倍首相(当時、左側中央)。そこから左へ菅官房長官、岸田外相、杉田官房副長官=2015年9月7日、首相官邸で

 今回は推薦者名簿から6人を除外し、任命できない人がいると菅氏に口頭で報告したとされる杉田氏は、1966年に東京大法学部を卒業し、警察庁入庁。82年、中曽根康弘内閣で官房長官だった後藤田正晴氏の秘書官に就き、次の長官の藤波孝生氏にも仕えて首相官邸と深く関わった。

警察畑の情報分析のプロ 官邸も熟知

 その後、同庁外事課長や公安一課長、神奈川県警本部長、同庁警備局長など主に警備・公安畑を歩み、97年に国内外の情報や重要政策に関する調査と分析を担う内閣情報調査室(内調)の室長に就任。2001年からは緊急事態に対処する内閣危機管理監を務め、当時の官房副長官が安倍晋三前首相だった。

 官房副長官は内閣法で3人と定められ、政務に衆参国会議員を1人ずつ、事務に官僚出身者から1人を任命するのが慣例。事務は各省庁の官僚のトップとされる。杉田氏は12年12月の第2次安倍政権発足時に官房副長官に就き、1995年2月から8年7カ月務めた古川貞二郎氏に次いで在任期間が長い。2017年8月からは、省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局長を兼務している。

 情報収集と分析のプロで官邸での業務経験も長いとはいえ、日本学術会議法で会員を任命するのは首相と定められている。杉田氏がそこまで踏み込める理由について鈴木氏は「菅氏は以前、私の取材に『政権の安定には法務と警察をしっかり握ることが大事』と語ったことがある。杉田氏を特に信頼している」。

官僚人事巡る情報集め菅首相の信を得た

 政治ジャーナリストの原野城治氏は杉田氏を、首相補佐官などを務めた今井尚哉氏ら経済産業省出身者と共に安倍政権を支えた人物とし「情報収集・分析に長(た)け、警察ルートを使って危機管理にまつわる情報をつかんでいた」と評す。

就任後初の記者会見を終え、引き揚げる菅義偉首相(右)と杉田和博官房副長官=16日、首相官邸で

就任会見を終えて引き揚げる菅義偉首相と、杉田和博官房副長官(左)=9月16日、首相官邸で

 「官邸官僚」などの著書があるノンフィクション作家の森功氏は、内閣人事局長就任を機に菅氏との距離が縮まったとみる。「官僚を巡る情報を集めるのは、警察官僚が得意とすること。難しい案件の落としどころを探るために、細かく情報を集めて判断材料を報告する杉田氏は、菅氏の信頼を勝ち得ていった」

著名学者の任命拒否は忖度狙う見せしめか

 今回、任命拒否された6人はいずれも大学や大学院の文系の教授。安倍政権が世論の猛反対を押し切って2013年と15年にそれぞれ成立させた特定秘密保護法や安全保障関連法などを批判していた。

 学術会議は、防衛省が15年度に軍事応用可能な研究を助成する制度を創設したのを受けて17年、反対する声明を発表した。任命拒否の背景にはそうした動きがあると見る関係者がいる一方、明治大の西川伸一教授(政治学)は「6人はいずれも著名な学者。そんな研究者でも『政権に盾突くとこうなる』という見せしめで、他の学者への忖度(そんたく)波及効果を狙っている」と分析する。

 そうした構図を描いたのが、杉田氏との指摘が出ている。元文部科学次官の前川喜平氏はツイッターで「内閣情報調査室が調査結果をまとめ、杉田内閣官房副長官に提出した文書があるはず」と発信。前出の森氏は「政府の機関にふさわしい人物かどうかチェックするのが杉田氏の仕事。彼が中心になったのは間違いないだろう。粘れば粘るほど傷口は広がるだけで、検察庁法改正の時のように撤回するしかない」と訴える。

モリカケ桜…「負の遺産」の管理人

 安倍政権の継承をうたう菅政権は、森友・加計学園の問題や、元法相で衆院議員の河井克行被告(57)と妻で参院議員の案里被告(47)=共に公選法違反罪で公判中=の事件など「負の遺産」も数多く引き継いでいる。

「桜を見る会」で招待客と記念撮影する安倍晋三首相(当時、中央)と昭恵夫人(右端)=2019年4月、東京都新宿区で

「桜を見る会」で招待客と記念撮影する安倍晋三首相(当時、中央)と昭恵夫人(右端)=2019年4月、東京都新宿区で

 それらの事案で重大な新事実が明らかになったり、内閣府が廃棄したとされる「桜を見る会」の招待者名簿が出てきたりすれば、政権を揺るがす事態に発展しかねない。西川氏は「そうならないよう『陰の総理』として霞が関全体ににらみを利かせ、危機管理の役割を担っているのが杉田氏」と説く。

警察官僚の重用は「危険分子」排除が目的か

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