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終戦の日、人々は靖国神社を訪れ、何を思うのか 8.15靖国ルポ

 暑い日差しが照りつけた終戦の日の15日、靖国神社(東京都千代田区)では午前6時の開門前から参拝者が列を作るなど、大勢の人が訪れた。今年は新型コロナウイルスの影響で、昨年とは世の中の状況が一変した。参拝者は何を思うのか。今年も「こちら特報部」恒例の「8・15靖国ルポ」をお届けする。

毎年8月15日、「こちら特報部」では記者たちが早朝から夜の閉門まで靖国神社の1日を取材し、翌日朝刊にルポを掲載しています。今回は特別に全文無料で公開します。

 5時 白み始める空の下、鳥居前で開門をじっと待つ男性の姿があった。杉並区の団体顧問、池端惇さん(82)は終戦2日前に戦死した13歳年上の兄を思って涙ぐんだ。「一番に来て手を合わせたかった。兄は本当に無念だっただろう。そんな人たちの犠牲があって平和があることを、今の若い人がどれだけ分かってくれるだろうか」

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開門前から詰め掛けた参拝者

 6時 「ギィ」という音を立てて神門が開くと同時に、待っていた人が一斉に拝殿へ向かう。コロナ禍の今年は、石畳に黄色いテープで立ち位置が示されていた。

 6時10分 早々と参拝を終えた人が神社を後にする。小学四年の長男(10)と訪れた同区の男性会社員(42)は「皆さんの平和と、コロナが早くなくなりますように」と祈った。

 6時40分 つえを突き、列に並んだ千葉市花見川区の児玉フサエさん(92)は鹿児島県出身。「お盆はお墓のある田舎に帰りたかったけど、コロナで行けなかった。今年はここで、20代で戦死した2人の兄をしのびたい」。隣でフサエさんの腕を支える次男隆義さん(68)は「戦争を知らない世代が増えている。憲法改正も話題になるけど、戦争だけはしちゃいけない」とつぶやく。

 7時25分 間隔を空けて並んでいるため、参拝者の列は例年より長い。「すげえ混んでるじゃん」と言って引き返す人もいた。

 8時15分 神門前に、「不肖・宮嶋」ことカメラマンの宮嶋茂樹さん(59)の姿が。「コロナ禍の参拝風景がどう変わるのか興味があった。この人出の多さから、『この日は特別』という人々の意識が分かる」

 9時40分 木陰で特攻隊員の肖像画と新聞記事を展示していた埼玉県所沢市の会社員谷口恵さん(59)は「特攻がフィリピンからも飛び立ったことを知らない人がいる。皆に伝えたい」。

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新型コロナの影響で、一般参加者を入れず神社関係者のみで行われた放鳩式

 10時 拝殿近くの能楽堂前で、白いハト100羽が放たれる。「英霊に向かって『ありがとう』と声に出して言いましょう」と司会役の男性。

 10時30分 売店近くのベンチで休んでいた世田谷区の本田俊成さん(73)は半世紀以上、終戦の日の靖国参拝を欠かしていない。「今年は日本会議などが主催する集会もないみたいで、静かで落ち着く。こういう夏もいい」

 10時40分 電動車いすの山本正治さん(70)は横浜市から一人で訪れた。「平和な日本があるのは英霊のおかげ。感謝するのは当たり前。どんな体になっても命ある限り足を運びたい」

 10時50分 1時間半並び、拝殿まであとわずかのところにいた墨田区の真田美津子さん(61)は「75年前の日本人も、こんなふうに暑い思いをしながら玉音放送を聞いたのかしら」と額の汗を拭う。

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拝殿前で手を合わせる人たち

 11時 参集殿に御朱印をもらいに来た練馬区の美容サロン経営尾高友里恵さん(33)は「平和をつくってくれた英霊にお礼を伝えに、毎年来ているの」。

 11時15分 極東国際軍事裁判(東京裁判)でインド代表判事を務めたラダビノード・パール博士の顕彰碑の前にいたスペイン人のダニエルさん(28)は「歴史問題は複雑。どの国にも言えることだけど、プロパガンダにだまされちゃいけない」と語る。

 11時30分 「動物はほとんど戦地に置き去りにされた。ペットボトルだと動物はふたを開けられないから紙コップが一番いい」。世田谷区の日野直光さん(85)が軍馬や軍犬、ハトの銅像に、水が入った紙コップをささげた。

 11時50分 米ニューヨーク出身のナダヤ・エレンさん(83)は、自国で迎えた終戦の日のことを今もよく覚えている。来日して半世紀。「あの戦争を忘れないために靖国に毎年来ている。日本は今、学校教育でもしっかり教えていない。もっと過去から学ぶべきだ」

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間隔を空ける印に立ち、正午の時報に合わせ黙とうする人たち

 12時 外苑休憩所に昨年オープンした食堂に行列ができる。皆のお目当ては、特攻基地があった鹿児島・知覧の食堂で「特攻の母」と呼ばれた故鳥濱トメさんが作っていた味を再現した玉子丼。大田区の会社員高階正至さん(48)は「特攻隊員になったつもりで食べた。どんな思いで食べたかと思うと胸が詰まって…」と涙を浮かべる。

 13時 医療救護所では医師の白須一也さん(55)が「今年はコロナで他県の看護師が来られないから大変。マスクだからか熱中症が多い」。この時間までに6人が救護所に運ばれ、2人が救急車で搬送された。

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感染予防のため、ひしゃくが撤去されたちょうず舎

 14時10分 外苑休憩所の売店。アルバイトの大東文化大3年外山雄大さん(20)は「ジュースやミネラルウオーターは30分前に完売。初めて手伝いましたが、周りに聞くと、去年より人が多いみたい」。

 14時20分 両親と参拝を終えた横浜市中区の中学1年高橋怜皇(れお)さん(12)は「15日の参拝は幼稚園の頃からしている」。新型コロナの影響で、この日が終業式。「学校から直接来た。拝殿でしっかりと手を合わせてきました」

 14時40分 千葉県木更津市から両親と初めて靖国を訪れた小学5年の女児(10)は「すごく人が多い」とぽつり。「小学生の参拝が少ない。学校で戦争のことを友達に教えたい。世界から戦争がなくなりますように」と話した。

 15時5分 拝殿近くでおみくじを引いた東京都調布市の男性会社員(39)も初の靖国参拝。「一昨年に福岡県から東京に引っ越してきた。一度は参拝しようと思って」。おみくじは小吉で「雲間の光に希望が見える」と書かれていた。「ぐっと運気が上ってくる感じがいいじゃないですか」

15時10分 大村益次郎の銅像近くで、英BBC放送のウイングフィールド・ヘイズ記者(52)がラジオの生中継を開始。安倍晋三首相が参拝しなかったこと、靖国を巡る中国・韓国との関係などをリポート。中継を終え「私の仕事は、自分の意見ではなく事実を伝えること。靖国問題はとても複雑だ」と述べた。

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旧日本軍の姿で行進する人たち

 16時 参拝に向かう人がまばらになり始める。それでも、拝殿での参拝は1時間半待ち。

 17時25分 依然として長い列が続く。参拝を終えた人が警備員に「もっとうまく進むようにしないと」と苦情を伝える姿があちらこちらで目立つ。

 18時14分 閉門。今年はコロナ対策で昨年より1時間早い午後6時の閉門だったが、参拝客が途絶えず時間を延長。閉門を告げる太鼓の音が21回、境内に響き渡った。

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