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鬼滅 大ヒット 炭治郎のように真っすぐに生きたい人続出

(2020年10月28日東京新聞に掲載)

 アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の勢いが止まらない。25日までの興行収入は100億円を突破。世代や性別を超えて幅広い層に受け、過去の最高興収を上回る可能性も指摘されている。また、今回は制作会社がグッズ販売も担って利益を確保しており、不安定とされるアニメ業界の労働環境を変えるモデルになるとの見方も出ている。 (石井紀代美、中山岳)

家族、仲間、強い絆…そして鬼

「体を張って仲間を守るシーンや、『強く生きろ』というセリフが心にジーンと来て5回ぐらい泣いた。もう1回見たい」。小学5年の女児(11)は映画の感想をこう語る。

 主人公の炭治郎はひたすら純粋で真っすぐ、これに対し敵役の鬼は嫌らしいほど冷酷で残虐―。アニメジャーナリストの数土 直志(すど・ただし)さんは、ヒットした要因の1つにストーリーの分かりやすさを挙げる。「敵と味方がはっきり分かれている。その背景に仲間との友情や家族の絆があり、感情移入しやすい。多彩なキャラクターが登場することも魅力になっている」

映画館に置かれた看板の前で記念撮影する女子高校生=名古屋市で

映画館に置かれた看板の前で記念撮影する女子高校生=名古屋市で

 精神科医の片田珠美さんは「日本各地に鬼の伝説が残り、昔話や節分の豆まきにも出てくる。もともと日本人にとってなじみ深い存在だった」として、敵役を鬼にした点に着目。「原作のストーリーでは、やむにやまれぬ事情から人を傷つけたり、物を盗んだりした人間が鬼になってしまう。『自分がその立場に置かれてもおかしくない』という気持ちになり、共感できるのではないか」と唱える。

 「鬼滅の刃」 主人公の少年竈門炭治郎(かまど・たんじろう)と妹の禰豆子(ねずこ)が、家族を殺した鬼に仲間と共に立ち向かう物語。大正時代が舞台で、原作は吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さん。2016~20年に「週刊少年ジャンプ」で連載され、映画はテレビ放映されたアニメの続編。多数の行方不明者が出ている「無限列車」に炭治郎らが乗り込み、鬼と死闘を繰り広げる。

頑張れみんな頑張れ!世代も性別も超えて勇気を

 コロナ禍がプラスに働いた側面もある。世界的な感染拡大の影響で撮影が困難になり、米ハリウッド映画の供給がストップしてスクリーンが空き気味な状況だった。シネコン「TOHOシネマズ新宿」(東京都新宿区)は公開初日の16日、12スクリーン中11スクリーンで計42回という異例の回数を上映した。運営会社「TOHOシネマズ」によると、「1シネコンにつき、1スクリーンで1日5、6回の上映が通常」(広報担当)という。

 10日で興行収入100億円を突破するのは史上最速。歴代1位の「千と千尋の神隠し」(2001年、最終興収308億円)を上回る可能性もある。ただ、小学生らにも大人気とはいえ、力を抜いて気軽に見られる作品ではない。鬼は首を切らないと死なないため、グロテスクな場面も何回も出ている。

映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」より。主人公の竈門炭治郎(●吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable提供)

映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」より。主人公の竈門炭治郎
(©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable提供)

 それでも多くの人が映画館を訪れている理由を、明治大大学院の氷川竜介特任教授(アニメ特撮研究)は「真っすぐさがウケている」と説く。自分さえ良ければいいという自己中心的な風潮がある中で、登場人物は逆の考えを持つ。「子どもは、おかしなことに駄目と言える大人を求めているし、大人も本当は炭治郎たちのように真っすぐ生きたいと思っている。そうした部分に、世代や性別を超えて誰もが勇気づけられているのだろう」

デジタル配信にも心燃える

 鬼滅の刃は、映画公開以前から空前の人気だった。週刊少年ジャンプ2016で年に連載が始まった原作漫画は今年5月に完結。今月、単行本第22巻が発売され、最終第23巻は12月に発売予定。1巻からの累計発行部数は電子版を含め1億部を突破し、小説版もヒットした。

 人気に拍車をかけたのが、昨年4月のテレビアニメ化。アマゾンプライム・ビデオやネットフリックスといった大手動画サイトでも配信され、以前はテレビを見逃したらDVD化まで待たなければならなかったが、いつでも見られるようになった。

漫画「鬼滅の刃」の単行本

漫画「鬼滅の刃」の単行本

 京都精華大の伊藤遊(ゆう)特任准教授(マンガ研究)は「電子書籍や動画配信の普及で、好きな時にアクセスできるようになったことも爆発的な人気の一因だろう。アニメで好きになった人が続きを知りたくて単行本を買ったり映画を見たりする相乗効果もある。そうしたメディア戦略が今後も強まるのではないか」と語る。

極限の極限まで磨かれた映像美の秘密

 映画のヒットの理由として見逃せないのが、映像の美しさだ。制作会社はテレビアニメと同じく、質の高い作品を作ることで知られる「ユーフォーテーブル」(東京)。

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鬼滅 大ヒット 炭治郎のように真っすぐに生きたい人続出

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